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座頭市血笑旅のcatmanのレビュー・感想・評価

座頭市血笑旅(1964年製作の映画)
5.0
シリーズ第8作。最高傑作の1作目を生んだ三隈監督と勝新の強力タッグ。本作も素晴らしい。
以下ネタバレあります

自分が原因で母を亡くした乳飲み子を、座頭市が抱きかかえ父親の元へ返すために旅するという異色作。往々にしてあざとく感傷的になりがちな設定を、本シリーズならではのバイオレンスとユーモア、ペーソスをバランスよく織り交ぜて情緒豊かにまとめ上げた一本。赤ん坊の可愛らしさを必要以上に印象付けることなく、安っぽいセンチメンタルな物語ににしないところが凄く良い。(ただこの男の子がめちゃめちゃ愛くるしい)

今回はヒロイン(高千穂ひづる)も異色&出色。普段は堅気の心優しい女性との儚い恋模様が描かれることが多いところ、ここで登場するのはスリを生業とするすれっからしの女。最初は市と衝突を繰り返すものの、赤ん坊の世話を通して次第に心を通わせ絆が深まっていくと言う...ベタなんだけど、やっぱりエモくならざるをえない展開。観ているこちらも彼女と市と赤ん坊の疑似家族が決して長く続かないことが分かっているだけに束の間の幸せが余計に切なくなる。ようやく出会った子供の父親(若き金子信雄)に裏切られ、自分の一生を懸けて子供を育てようと決意する市に、年老いた和尚(加藤嘉)が言う「めくらでひとり者のヤクザのお前がその子を幸せに出来るわけが無い」と静かに諭すその言葉に悲しみがぐっと深まる。

市の居合斬りはもちろん絶好調で、宿敵と呼べる強力なライバルは不在ながら松明に包囲される最後の戦いはスペクタクルで見応えたっぷり。勝新の衣装に火が燃え移りながらも結構な長回しが続くので、撮影事故なんじゃいかと心配になる。おそらく耐火スーツなんか着ていないだろうし。役者とスタッフの熱量が半端無い。

三隈監督らしく目を見張るカットが幾つもあるんだけど、特に緑豊かな日本の山村の風景を映し出す屋外ロケの画がとても美しくて感動的。リマスターされたBlu-rayのクリアな映像はよりいっそうの眼福です。映画はやっぱり画だな( ˘ω˘ )
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