Sari

砂丘のSariのネタバレレビュー・内容・結末

砂丘(1970年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2021/05/02 DVD

南カリフォルニアの学生紛争の真っ只中で、ヒッピー風の若者達の銃撃戦が繰り広げられるキャンバスに潜入した警官が射殺される。殺人容疑にかけられキャンバスから逃亡した男マークは、セスナ機(小形飛行機)を駆って砂漠へと逃げる。そして砂丘の真ん中で彼は一人の女性と出会い、束の間の愛を交わすが…という物語。

アントニオーニ監督が『欲望』の3年後にアメリカで撮った作品。
カリフォルニアにある広大な砂丘ザブリスキー・ポイント※は、山脈であり渓谷のような形状を持つ砂漠地帯。この神秘的なロケーションで、砂にまみれながら何組もの男女が交わり幻覚のような感覚でとらえらた象徴的なシーンがある。
(※ ザブリスキー岬。カリフォルニアのデスバレー国立公園の山脈の一部で侵食景観として有名。デスバレー誕生前の500万年前に干上がったファーニスクリーク湖の堆積物で構成される。)
アントニオーニが、'70年のベトナム戦争の最中にあるアメリカの若者のヒッピームーブメントや近代化をイタリア人の目線で客観的に捉えたカルチャー映画としての位置付けが高く、時代的に見てアメリカン・ニューシネマの代表作『イージー・ライダー』を存分に意識していたのではないかとも思う。
設定は全く違うものの、広大な砂漠というロケーションでロードムービー的にゆったりと進み衝撃的なラストを迎える、混沌とした現代アメリカを映す構造は同じである(奇遇だが、ダリア・ハルプリンは後のデニス・ホッパーの妻)。
しかし、アメリカ進出しても尚‘’愛の不毛‘’という虚ろで形のないものを俗物的なシークエンスで描くヨーロッパ映画監督としての本質と志しは一貫しており、グレイッシュで抑えたトーンに鮮やかな赤を利かせたイタリア人らしい色彩感覚も印象的だ。
同じサム・シェパード脚本『パリ、テキサス』の原型のような乾いた砂漠風景が既に存在していたことも驚きである。
音楽は、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズなどのロックが使用される。
建築物が大爆破した後のロイ・オービソン「So Young」が皮肉的に使われる、この衝撃のラストを見るだけでも価値のある作品と言えよう。爆破でカラフルな洋服(その他の様々な物やガラクタ)が吹き飛ばされ宙を舞うのは、例え妄想であったとしてもカタルシスであった。脳裏に浮かんだのは、グザヴィエ・ドラン監督『わたしはロランス』のワンシーン。他沢山の映画にも影響を与えたようだ。
Sari

Sari