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セルロイド・クローゼットのくりふのレビュー・感想・評価

セルロイド・クローゼット(1995年製作の映画)
3.5
【開け、クローゼット!】

1995年作、映画史の中の同性愛を追ったドキュメンタリー。タイトルには二つの意味。文字通りフィルムの保管場所の意と、それは同性愛の隠れ場でもあった、ということ。

元々は本作、同名のノンフィクション書を基としているんですね。邦訳出ておらず残念。この映画版は、細部にはさほど踏み込みませんが、変遷してゆく流れはわかり易いです。

笑いの対象でしかなかった初期から、唾棄すべき標的へと変わってゆく、受難の歴史。60年代までは「性に問題のある人間」が、どう描かれるかはお約束となってしまう。一方、隠喩を用いた表現で、検閲をすり抜けるテクニックも磨かれてゆく。そして70年代に入ってやっと、映画は同性愛に正面から向き合うようになり… というような「隠し愛映画史」の流れを、多数の名場面と共に知っていけますね。

登場する映画は70本ほど。名作として知られている作品も多いのですが、同性愛者にしかわからない符号を、初めて知って成程、と見方が変わったりもします。改めてみ直したくなったのは『レベッカ』『ベン・ハー』『フライド・グリーン・トマト』辺り。『ベン・ハー』の同性愛描写はうっすら知っていましたが、本編は子供の頃にみたきりで、終盤の展開に唖然となって以来、嫌いな映画でしたが、本作で興味が再燃しました(笑)。監督と脚本家がC・ヘストンには内緒で、メッサラのそれを巧妙に仕込んでいたんですね。

私は同性愛者ではないので、本作のような形で教わらないと、気付かぬ表現も多いです。でもそこが興味深い所でもあります。映画はずっと、特定層にだけ通じる秘密の表現… 衆人環視の中、意中の相手にそっと恋文を渡すように同性愛を描いてきたということ。それはもちろん、当事者には苦みを伴ったものではあるわけですが、隠された表現を見つけるという、古い映画の楽しみ方が増えてゆくのは素直に嬉しい。

時代の格差を感じたのは、1982年のとある、日本未公開作品で初めて、ゲイの主人公による、あるシーンが描かれた際、見ていた観客がパニックとなり、通路に殺到してしまった、という事件の紹介。…お化け屋敷じゃないんだから(笑)。『MILK』がシネコンで公開される現代からみると、かなりビックリな珍事です。

1995年以降はかなり多様化しているでしょうから、本作の続きをみたい気もしますが、日本でも「レズビアン&ゲイ映画祭」が毎年開催されている、というような現況では、全体を大きく俯瞰することには、もうあまり、意味がないのでしょうかね。

因みに、全登場作品のリストはWikiの本作ページに出ておりますね。

<2010.1.21記>
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