垂直落下式サミング

ドラえもん のび太の創世日記の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.6
のび太の自由研究は、フェッセンデンの宇宙。
宇宙の誕生から地球の発生、そして生命の誕生まで作り上げる秘密道具が登場。友だちと、ミニ地球の観察日記をつけていると、地底に独自の進化を遂げた虫たちが発生していることがわかる。やがてその虫たちは、ミニ地球の人類に反乱をおこして…。
創世のプロセスが、まず面白い。何もないところにビッグバンがおきて、散らばった破片みたいのが、宇宙を漂っているうちにやがて天体を形成して、ようやく現代の太陽系が出来上がり、地球では最初の両生類が生まれて、そっから人間登場からの文明がおこってご先祖様がウガウガウッホッホッ、みたいな超ザックリクロニクルではあるけれど、プラモデル作ってるような感覚で面白く説明しちゃう。
理科的な当然の知識を子供にもわかるレベルまでかみ砕いて、かといって好奇心を刺激する要素はしっかりと残す藤子Fメソッドのきいた作品。知的な教養番組としてのドラえもんここにあり!といった内容。
ドラえもんが卑弥呼さま系のヘアスタイルで日本神話の格好をしているが、実は和洋折衷テイスト。イザナギとイザナミがなにもないカオスをグルグルかき混ぜたみたいなモチーフに乗っかってくるのは、日本的な「カミサマ・ホトケサマ」ではなく、「GOD(唯一神)」っていうキリスト教の価値観。我らがのび太神こそが唯一の創造主であるぞよ。ここに何回もツッコミを入れながらレッツ!メイクワールド。
虚と実の混ぜあわせも、これまた絶妙。本来だったら図書室から得るような教養を漫画から得られるのが大長編の魅力だ。前提がしっかりとアカデミックなおかげで、後半から絡んでくるオカルトな都市伝説レベルの昆虫人間も、もしかしたらいるんじゃないかしらと、実在感をもって感じられる。
サブストーリーではあるけれど、昆虫人間たちとの折り合いの付け方は、わりとよかったと思う。どちらが神に愛される生物か決めるために潰しあうんじゃなくて、新しい可能性をクリエイトしていきましょう。科学力こそが、すべてを凌駕するんだぜ。
仲よくは暮らせなくても、あえて隔たることで得られる安息もある。喜びとは分かち合うことだという前提の上で、どうにもならないこともあるけれど、目の前の問題に目をつむらないことが大事なんです。そんでもって、カミサマになんかに頼らなくても、ニンゲンはきっと大丈夫だよと小匙いっぱいの楽観視。めちゃめちゃオトナな着地…。これ子供向けだろ?すごいな…。
太陽系創世キットかあ。一番ほしい。こんなもんを小学生の夏休みに経験できたら、僕ならもっとマシなオトナになれたってのに。なにやってんだ、のび太。