オトマイム

風たちの午後のオトマイムのレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
4.4
あなたの手が触れたもの息がかかったものすべてが色づきひかりを放つので手を伸ばさずにはいられない/そしてそんなものが増えるたびに空気が薄くなり/苦しくなって、ばらばらに壊れそうになる/どんなに望んでもあなたが手に入らないのなら/せめて忘却という言葉のない、ふかいふかい森を探しに行こう





コントラストの少ない平坦な色調のモノクロームが白昼夢のよう。多幸感あふれるスローモーション、泣きたくなるようなトイレのシーン、どのショットも印象的だった。映像と彼女の一途な恋心とが渾然一体となり、美しくてナイフのように鋭い。叶わない恋、もっといえば愛される資格のない恋。その切なさ甘やかさが画面いっぱいに満ちどんどん胸に迫ってくる。

ミニシアターの小さめな客席の8割方女性だったが、途中からあちらこちらですすり泣きの音が聞こえてきた。今、苦しい恋をしているひとならば深くシンクロしてしまいそう。そんな劇場体験をまるごと噛みしめ抱きしめながら帰路についた。