磯野マグロ

風たちの午後の磯野マグロのレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
4.2
最初は、ちょっと難聴気味なのでそれでセリフが聞こえないんだなマズイな、と思っていたんだけど、鳥の声や遊ぶ子どもの声、さまざまな生活音、呼吸音まで聞こえることに気づいてからは、セリフは追わず聞き取れる音だけに神経を集中できた。
とても普遍的でストレートな、愛についてのお話だった。自由で奔放なミツはすっと背筋を伸ばしさっさっと歩く。台所の水道の蛇口からシンクに滴る水音がいつも聞こえている部屋にナツと住んでいる。
ナツはデビュー当時の中森明菜にそっくりのミルキーフェイス。マンホールの縁にそってくるっと回りながら、あっちへふらりこっちへふらりと歩く。
洗濯したり寝っ転がったり拗ねたりお化粧したり、何気ないシーンの積み重ねを見ているうちに、ナツのミツへの思いにこちらもシンクロしてくる。
小さな声で愛を告げるナツ。思い通りにならないミツにストーキングの深みにはまり、嗚呼こりゃヤバいというラインを超えて暴走を始めるナツ。ミツを見張りながらパンをかじりビンの森永牛乳を飲むナツ(刑事か)。ミツの出したゴミにまみれるナツ。歌舞伎揚の袋、吸殻。リンゴの芯をかじる。それらの行動がまた、夢のようにはかなくておかしくてかなしい。
昭和50年代の新宿や笹塚の街並みが愛おしい。明け方の十号通りの本間酒店のカンバン、シャラシャラと鳴るピンクの造花のついた街灯、靖国通りの木村屋の賑わう店先。なんでもないシーンばかり思い出す(愛おしすぎて、映ってないものを妄想しているかも)。
ブラッシングのシーンがとても印象的。いまの人はあれほどはブローもブラッシングもしないイメージがあるんだけど、髪型のせいなのかしら。まわりにロングヘアの人がいないので聞けない。
66
磯野マグロ

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