本作では美術、衣裳、化粧に最良のスタッフを集め、キャメラマンは、Christian Matrasである。彼は、本作と同年にM.オフュルス監督の下、同様のテーマの作品『歴史は女で作られる』(原作:ローラ・モンテス)を撮っている。フィルム素材は、Eastmancolorで、その濃厚・濃密な深みのある色彩は、正にこのテーマに最適である。(Technicolorは、「総天然色」の宣伝に違わず、華麗な彩色であり、『風と共に去りぬ』は、やはりこの素材でなければ、合わなかっただろう。)
原作は、社会派の自然主義作家E.ゾラであり、彼は、第二帝政期時代のフランス社会を文学的に活写しようとし、20巻の作品でこれをまとめる。(1870年から1893年まで順次叢書として発表)その一巻が『Nana』(1879年発表)である。原作の前半はストーリーに使われているが、本作の脚本の後半は映画独自のストーリー展開となっている。
なお、E.マネも「Nana」という題名で作品を1877年に描(か)いており、女性の個室ブドワールで、紳士が同席しているという一義的な状況で、鏡を覗きながら化粧をしている若い女がそこには描かれている。本作鑑賞前に一度この絵をご覧になるとよいであろう。