クラゲ生活

ブラックホーク・ダウンのクラゲ生活のレビュー・感想・評価

ブラックホーク・ダウン(2001年製作の映画)
3.8
戦争映画、というよりは紛争映画になるのかな?
海賊問題等で現在でも一部では治安の悪さの代名詞的なミームにもなってしまっているソマリアで
1993年に実際に起こったモガディシュの戦闘を題材に描いた作品です。
監督は『エイリアン』や『ブレードランナー』でお馴染みリドリー・スコット。
彼の作品の特徴ともいえる光と音さらには本来スクリーンからは伝わる筈のない熱や嗅覚にすら訴えかけてくる緻密な舞台描写によって、
ソマリアはモガディシュ市内のむせ返る様な土埃やマーケットの一角から漂うすえた残飯と民兵の体臭、弾薬と流れる血の匂いすら感じて来るのが不思議です。
米軍の白兵戦闘をこれだけリアルに描いた作品という点においても金字塔的作品と言えるのではないでしょうか。

さて、本編においては実際に起きた戦闘を題材としているだけあってどちらか側に一方的に都合の良い展開やヒヤリハットも無く主要キャラクター達であっても粛々淡々と傷付き死んでいきます。
物語の最後は敵陣の中で孤立した米軍部隊が他国の救援を受け(この辺りも米軍と他国間のヒエラルキーや司令部の葛藤として作中でも描写されています。)死地から撤退した時点で一応のエンディングを迎えるのですが、当然ソマリア民兵や暴徒化した市民との戦闘はまだ継続しており更には紛争の事後処理や治安維持、国際世論の高まり等の別の戦いが待ち受けている訳です。
作中で負傷の軽い一部の登場人物がまた自ら死地に向かって行く姿で暗喩されていた様に、現実は映画の様にカーテンコールで全ての幕引きとは行かないのだということですね。
観ている最中の興奮が冷めた後に、浮き彫りになってくる一連の様々なテーマに対してより深く個々人が考えるという事こそが本作品の本質とも言えるのではないでしょうか。

余談ではありますが、実はこの戦闘の後に国連平和維持軍がソマリアから撤退した事により事実上の無政府状態となり、本作中のアイディード政権化以上に混迷を極める状態に陥ったとも言われています。(冒頭で触れたソマリア沖の海賊はこの無政府状態において漁民達により外貨獲得の有効な手段としてある種国家ぐるみで行われていました。)
この実情を問題視し現地の漁民へ資金援助と教育を行い再び漁師として生計を立てられる様に尽力したのが、かの有名寿司チェーンすしざんまいの社長なんですね。大マジ。

以前ネットですしざんまい社長がソマリアの元海賊とキハダマグロを獲っている写真を見て以来、リドリー・スコット次はこの話を映画化してくれと切に願っています。笑
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