星降る夜にあの場所で

赤い砂漠の星降る夜にあの場所でのレビュー・感想・評価

赤い砂漠(1964年製作の映画)
4.5
自然と共生していた者にとって、この世界で生きていくことはどれだけ苦痛であったことだろう。
本当は本作の主人公が正常であり、その他の人間が正常ではないのだから…
こんな事を書いている私も正常ではない人間の1人なのだ。
私たちの生活を快適便利にするために作り出されたはずのモノたちに支配されていることに気付きながらも、見てみない振りをしたり都合のいい折り合いをつけて日々やり過ごすことに慣れてしまった。
おそらく主人公の女性は交通事故に遭遇する以前から、この違和感とやり過ごすことなく戦い続けていたに違いない。
彼女もやむなく私たちに同化しようとしているのだが、その行為を時折共生していた自然が彼女のために問いかけてくる。
それを人は、気がふれているで片づけてしまう。なんてやるせないことだろう…
自然と共に生き神に守られていた古き良き時代から、宗教に抑制されていた時代、ルネッサンスによって個を取り戻し始めた時代、産業革命、二つの世界大戦により再び個を失ってしまった時代…
繰り返される歴史の中で最も私たちの生活に影響を与えたのが、産業革命ではなかろうか。
それによって1つのモノを作り出すことに時間と愛情をかけていた時代が大きく変化した。
その変化によって生じた歪みを放置したまま、産業は瞬く間に飛躍していく。
もう今となっては取り返しのつかない事態にまで悪化しているのにも関わらず、私たちは平気で生活しているわけだ。
そんな中、アントニオーニのような映画監督をはじめとする芸術家たちは敏感にそれを察知して、時に私たちに対して警鐘を鳴らす。
カラー1発目にこのテーマを描くアントニオーニに強く共感する。