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La diagonale du fou(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

La diagonale du fou(原題)(1984年製作の映画)
4.0
[チェスと政治の全方位戦争] 80点

80年代にアカデミー国際長編映画賞がイカれた選出を繰り返していたことはホセ・ルイス・ガルシ『Volver a empezar』でも述べた通り。本作品は同作と並んで受賞作品の中で日本公開されていないたった二作のうちのもう片方である。私が初めて映画リスト制覇を試みたのが(ありがちだが)アカデミー作品賞で、そこから飛び火してこちらのリストも作成したのが10年前だが、『ファニーとアレクサンデル』を挟んで未公開が並ぶ奇妙さを未だに覚えている。本作品はあからさまにヴィクトール・コルチノイとアナトリー・カルポフのチェス対決を念頭に置いて作られたであろう、東西冷戦のイデオロギー対立をチェス世界に落とし込んだ作品である。 

チェスの世界チャンピオンであるアキヴァ・リープスキント、そしてソ連からスイスへと亡命したアキヴァの元教え子パヴィウス・フロム。二人は世界チャンピオン戦としてスイスで対決することになる。"ソ連体制vs亡命者"という図式以上に、ゲームは周りの取り巻きたちや観客たちによって政治色を帯びていくが、本人たちにとっては因縁の師弟対決に他ならない。互いの得意な攻め方/守り方を知っているからこそ、どの手法を取ってくるかなどという盤上以外での心理戦もしっかり描いている。チェスをやってるシーンがほとんど出てこないくらいに(ゲーム自体はプレイ開始と投了シーンのみ)。また、アキヴァには体調、パヴィウスにはソ連に残してきた妻という心配事があり、この二つが駆け引きの中心となっていく。チェスは個人プレーで盤上に政治が乗っからない分、試合以外の部分=プレイヤーの二人以外の人間が"政治"を付加することとなり、チェスを政治にしたいけど出来ないという駆け引きが全方位戦争に発展するのはなんとも面白いんだが、アキヴァとパヴィウス界隈を平等に描く脚本のせいで映画があまりにも整いすぎた冷徹さを持ってしまい、チェス試合の熱量から乖離しているのはちと気になった。

アキヴァは補聴器を付けているんだが、集中したいときや人の話を聞きたくないときはこれを外して無音になるという演出が良かった。相手のいないチェス盤→ラストシーンの流れは素晴らしい。
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