都部

秒速5センチメートルの都部のレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
4.0
美麗な初恋の想い出に執着し、送る気もない未送信のメールを弄びながら過去の恋を好き勝手弄んでいたひたすらに女々しく、ただ優しいだけと揶揄されがちな行動を起こさない男が、失恋を経て前に進むまでを描いた成長譚。

骨子は好きだが、お綺麗な挫折は鼻で笑える。
物語のような初恋をしてしまったからこそ物語のような失恋をすることでしか解放されなかった、という構図こそが本作の魅力であるので。世間一般が言うところの『鬱』を体感できるほどこの輝きに見覚えがなく、自分はひたすらに前向きな話だったという遠巻きな視線からの所感が主にある。屈折の物語ではあるけれど、本作は泥臭い葛藤やショボイいじらしさは排除されており、初恋よりもむしろ挫折が理想化された世界観だからこその世界観なのだろう。理想的な挫折は個人の心を本当の意味で折らないし、だからこそ個人の心は生ぬるく救われ続けたままなわけで。
そうした挫折に対する傲慢さを包み隠さず描いているという点で本作は評価に値するように思う。
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