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自由の幻想のBONのレビュー・感想・評価

自由の幻想(1974年製作の映画)
4.2
原題はマルクスとエンゲルスによる共産党宣言の冒頭文。スペインのロマン派詩人グスタボ・アドルフォ・ベッケルの物語にインスピレーションを受け、ねじれた夢のロジックと不条理が詰まったシュールレアリスムを肌で感じられる傑作。

社会の道徳と文化的タブーを表現するため、ブニュエルと脚本家のジャン=クロード・カリエールがコンビを組み、それぞれが見た夢をもとに徹底的に話し合うことで脚本を書き上げ、既存の概念に捉われない自由な映画を追求し続けたブニュエルの壮大な茶番劇。

「自由よ、くたばれ!」から幕開けする、ナポレオン軍に対するスペイン人の反乱の象徴であるフランシスコ・デ・ゴヤの絵画「マドリード、1808年5月3日」の世界。
そして一気に現代のフランスにひとっ飛び。

めまぐるしくそれぞれの物語が展開し、作品がどこへ向かうのか誰にも分からず、矛盾だらけの奇怪な状況を描き続ける。

娘から取り上げた観光地の建物の絵葉書を見ながら卑猥だと興奮する夫婦(モニカ・ヴィッティとジャン=クロード・ブリアリという豪華さ)や、神父達の自堕落な賭博や酒やタバコ、禁忌と欲望に悶える宿屋の客達、食事と排泄が逆転した家庭、死んだはずの妹(丸裸ピアノ)から電話で呼び出される警視総監、死刑を宣告された直後に釈放される詩的殺人鬼、目の前にいる娘が誘拐されたと訴える父親、いくつもの奇抜な奇譚が「偶然」を介して数珠つなぎに展開されていく。

ブニュエルは、家族、宗教、警察に痛撃を食らわしますが、皮肉な笑いで激しい政治や一般常識に対する批判性を煙に巻いている、

登場人物の名前にフーコーやパゾリーニが登場することで、その時々のブニュエルの関心が感じられて面白かった。特にパゾリーニと名付けられた博士に至っては一人の人間が一日に何キログラムのウンコや尿を出しているかなどをド真面目に説明していて、『ソドムの市』(1975)を意識しているだろうか。

パゾリーニは過激で一貫性があることで『ソドムの市』撮影終了直後、保守派や資本主義に対する政治的風刺にやってネオファシスト勢力からの強い反発を受け酷い死に方をしたが、ブニュエルは大衆を笑わすユーモアのセンスがあるから生きたものもあったのかと思う。

「自由とは、掴まえようとしても掴まえられない幻影のようなものだ」とブニュエルは言う。果てしない自由の追求は喜劇となり、ブニュエルはその人間喜劇をダチョウの目を通して描かれラストは…自由を捨ててダチョウに戻っていった。

異常は普通になり、当たり前の事は不明確に、非日常は平凡に変わり、自由を手にするのも難しく完全な自由も危険だなと感じた。予想外でいかに普段の生活で「普通」ということに洗脳されているか実感した。面白かった…。
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