スローモーション男

どですかでんのスローモーション男のレビュー・感想・評価

どですかでん(1970年製作の映画)
4.8
 黒澤明初のカラー作品。
三船敏郎と最後に組んだ『赤ひげ』で集大成を作ったあと、『暴走機関車』や『トラ・トラ・トラ!』『どら平太』などたくさんの企画が頓挫してしまい、色々あった時の黒澤明が撮った暖かい作品です。

ごみの街を舞台にそこに住む様々な人間を点描のような繊細でちょっと汚れたように描いた作品。
冒頭は電車大好きな六ちゃんの出勤から始まる。
「どですかでん、どですかでん、どですかでん、どですかでん!」

妻を交換する酔っぱらい男たち
乞食の親子
血の繋がらない子供を何人も抱える父親。
寛容すぎる老人
トゥレット症の旦那と気性の荒い妻
死んだ目の男と別れた女
知識人ぶった父とこき使われる娘

 それぞれの日常が少しずつ崩壊していく…。
 おなかを下した息子をどうすることも出来ない父親や近親相姦に走る父親。過去の問題を処理できない夫婦。
 この映画は自分でなにも出来ない人々の話が多い。
そして、みんな孤独なんです…。
『どですかでん』はサン・テグジュペリの『星の王子さま』にテーマが似てる気がします。みんな、自分のことしか考えてない。
 その中で美しいものは輝き続けます。愛する妻のために説教したり、誰かを助けたり。
「大切なものは目に見えない」というのを映像で表現しているように感じました。


黒澤明は一番低い所に居る人々の生活を描きます。『どん底』も『酔いどれ天使』も『天国と地獄』も。
カラーになったことで絶望のなかに少しの光を感じさせてくれました。

あと武満徹の音楽も明るく爽やかになっています。

クライマックスはなく、人々は変わらないが、小さなことが変わったと思わせてくれる素敵な作品です。