義民伝兵衛と蝉時雨

8 1/2の義民伝兵衛と蝉時雨のネタバレレビュー・内容・結末

8 1/2(1963年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

前回観た時はまだDVD化されてなくてVHSで鑑賞した。やや難解な内容だという事とラストシーンの強烈なお祭り感だけは印象に残っていたが、殆どの内容は忘れてしまっていた。今回はBlu-rayで鑑賞。

ストーリーは主人公の夢の中や現実の世界、空想の世界、少年時代の記憶などを唐突に行き来するのだが、余計なことや野暮なことは一切説明されないので、これはこうでこれはこうなのかと自分の頭で結論を出していかなければならない。なので内容を噛み砕くのに少し時間がかかった。この唐突に現実や空想を行き来するのは、迷いや悩みで混沌としている主人公の思考を展開に投影してるのだと思う。

主人公は女性関係の理想と現実のギャップに苦しみ、いよいよ最高の理想であるハーレムを空想の中で思い描き楽しむ。しかし現実はそうはならない。仕事の方もプレッシャーと葛藤で行き詰まり、御託を並べる脚本家を空想の中で死刑にする。しかし現実は変わらない。空想の中で最も神格化している女性クラウディアに最後の希望を抱くが、彼女も空想の中で描いていたクラウディアとは違い突き放されてしまう。理解してくれる人は誰ひとりいない。絶望感とプレッシャーに押し潰された主人公は自殺を思い描く。

フェリーニ監督の映像の魅せ方はとても美しい。女性の魅せ方も素晴らしく、中でもクラウディア・カルディナーレの美しさには相も変わらず撃ち抜かれた。

「人生はお祭りだ。一緒に過ごそう。」はシンプルで分かり易くて素晴らしい名台詞。それまでの苦悩や葛藤が全て吹っ切れたラストのお祭り騒ぎは爽快だった。人生には苦悩や葛藤は付き物で色々と難しい事を考えてしまうけれど、どの道最後は死んでしまうのだからそんな堅苦しい生き方は辞めて、人生をお祭りみたいに騒ぎ楽しもうじゃないか!
そんなフェリーニ監督のメッセージと心の叫びを感じた。

2022年9月24日、午前十時の映画祭12にて久しぶりに鑑賞。3度目の鑑賞にして本作の素晴らしさを心の芯から感じられたような気がする。人生というモノが詰まりに詰まっている。社会生活の苦悩。過去への郷愁。万感胸に迫る内容に涙が出た。芸術に限らずやはり苦悩こそが素晴らしいモノへと昇華する。それを身に沁みて分からせてくれる大きな傑作。巨匠の血の滲むような苦悩が想像した創造物。悲劇が喜劇を描く。モノクロ、カメラワーク、構図など、映像美の驚くべき素晴らしさも語らずには通れない。フェリーニ監督の幻想的かつ現実的な叙情的な映像詩。現実と夢と空想を行き来する耽美な思考の旅。社会に惑わされずに自分自身を生きるということ。素朴な自分と再び心を通い合わせるということ。唯一無二の自分自身の心を生きよう。人生は祭りなのだから。スクリーンで味わう本作は一味も二味も違う。午前十時の映画祭さんに毎度毎度感謝。貴重なこの機会にもう一度この感動を胸に焼き付けておきたい。スコア4.0→4.7up↑↑