半兵衛

不思議なヴィクトル氏の半兵衛のレビュー・感想・評価

不思議なヴィクトル氏(1938年製作の映画)
3.7
表向きは地元の商人、裏では泥棒の元締として活動しているヴィクトル氏が、ふとしたことで自分の罪を被ってしまった男を匿うが…。

主人公の設定といい、泥棒グループのやりとりといいそんな彼と殺人罪の濡れ衣を着せられ子供恋しで脱獄までしてしまった男との関係性といいどことなく池波正太郎の小説みたいな内容だった。池波氏が結構なシネフィルであることを考えるともしかして鑑賞しているのかも。

フランスを代表するシナリオライター、シャルル・スパークが手掛けているだけに話の流れが凄いスマート。冒頭靴職人が持っていた錐が子供に渡り、それが彼と遊んでいたヴィクトルの手に渡り、そして自分を脅してきた子分への凶器になり被害者とちょっとしたことで揉めた靴職人が犯人にされてしまう展開が自然で巧妙。

男を匿ってからヴィクトルの奥さんと彼がお互いを想うようになったり、靴職人の息子が彼の正体を知らぬまま目撃してそれを義理の父親(彼もヴィクトルと繋がりのある犯罪者)が知って懸賞金目当てで警察に密告したり…とやや詰め込みすぎな展開に。そんなせわしない物語を何とかまとめるグレミヨン監督の演出が見事。

犯罪者にしては落ち着きがなくすぐ顔に出てしまうが、いざ裏社会のことになると凶悪な一面を覗かせるヴィクトルをレイミュが好演。そんな彼がたびたび披露する黒柳徹子みたいな一方的に喋って一方的に終わらせる喋り方が笑える。

ラストのオチも『鬼平犯科帳』みたい。
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