Shion

スパイダーマンのShionのネタバレレビュー・内容・結末

スパイダーマン(2002年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2002年、サム・ライミ版スパイダーマン三部作の一作目。
アメコミ映画黎明期、ヒーローのオリジンを描き、因縁の宿敵との対決という、ティム・バートン版『バットマン』や『ロボコップ』のような、アメコミ王道のストーリーの快作。
(一瞬で骨になって死ぬオズコープの役員たちは『マーズ・アタック』風だし、なんとなくティム・バートンへの意識はあるのかな)


眼鏡のダサいヲタク少年がヒーローになるというわかりやすいストーリーライン。
イジメの描写にも時代を感じるキャラクター造形とは思うが、こういうのがわかり易くて良い。
2000年代のアメコミ映画、最高だ。

冒頭、自分のネタをかっさらってMJに話しかけるハリーに対して「こいつぅ」みたいな顔をしつつ「こうやって話しかけるのか!」みたいな顔もしてるピーターが可愛いし、
MJと車のことを考えながらスパイダーマンのデザインを考える思春期丸出しのピーターの姿もたまらなく愛おしい。

ベンおじさんとメイおばさんもひたすら良い人で、アメリカの良い家庭、という感じ。

こう言うファミリー観、最近の映画ではなかなか観なくなってしまった気がするなぁ……。
アメリカン・ファミリー・シットコムで育った身としてはこういうアメリカ像は未だ憧れの的なんだけどね。


蜘蛛に噛まれるまでに10分。
ヴィランの目覚めに、主人公がスーパーパワーに覚醒するまでに30分もかからない。
目が良くなってる、筋肉がついてる!とわかりやすく視覚的にも表現してくれるのが良い。グリーンゴブリンが吸い込む薬が緑色だったりそんなはずあるか!なんだけどこれもわかりやすさ重視。
この間に登場人物はほぼ全員登場して、それぞれのキャラクターや関係性もある程度理解できる。

さくっとオリジンを描くこのスピード感はこの時代ならでは。映画としてオリジンは描くけど、ある程度原作の予備知識はある前提。
まだ有名なキャラクターから映画化していた時代で、知ってる人に向けた映画作りでもある。


今よりCGもずっと安っぽく、所々実写から浮いてしまってはいるけどそれはご愛嬌。
この頃のキャラクターというのは、なんとなくまだ、リアリティラインギリギリのところを保っている気がする。
あまりにもリアルでないキャラクターを実写化できる技術がなかったという事情もあるのだろうが、なんとなく「ありそう」と言うか、こういう能力を自分も持てたら、みたいな気分になれるのが良い。
みんな幼い頃、蜘蛛の糸出そうとしたでしょ?w


ピーターが逃した泥棒がベンおじさんを殺してしまう、この一連のシーンを説明しすぎず、叙情的に書きすぎないのが良い。
撃たれるシーンなど書かなくとも、ベンおじさんの倒れた姿を観た時点で最悪の想像は容易い。
とにかく演出がくどくない。説明しすぎ、叙情的すぎる昨今。このくらいで充分に、「大いなる力には大いなる責任が伴う」は表現できる。
不純な動機からスパイダーマンになり、ベンおじさんの死から本当のヒーローになっていくのは見事な流れだ。

また、自分の得た能力に戸惑いながらもすぐ調子乗っちゃうピーターにはX-MENシリーズのような悲壮さがない。
ここがスパイダーマンの良さ。過酷なカノンイベントが起こりはするが、本人の軽さが物語全体を見易いトーンにする。
街の人がみんなでスパイダーマンを助けるラストバトルも、このキャラクターだからこそ映える。
親愛なる隣人はこうでないと。


今作のMJに関してはずっとフラフラしててイマイチ魅力を感じないのだよなぁ……。
スパイダーマンに関してもなんとなーく助けてもらって惹かれちゃいました、みたいな感じ。
家庭環境や諸々のせいで自信と自分の軸がない女の子として描きたかったのかな。
そんな彼女の心の奥底に触れたのが、スパイダーマンではなく、ピーターだけだったのかもしれない。
ラストのキスでスパイダーマンの正体に気づいてるっぽいとこは描写として素敵なんだけどね。


結局今作一番の被害者は間違いなくハリー。
父親であるノーマンもどこか息子の本当の部分を見ておらず、MJにも振られ、唯一の親友の正体が憎むべきスパイダーマンだからなぁ……。
ノーマンの「ハリーには言うな」だけは最期の父親らしさだったけど、そこは伝わらない。
ハリーに救いがなさすぎる。

ノーマン・オズボーンは根っからの悪人ではないのだろうが、どこか選民思想で差別的なところがある。それが息子であるハリーを苦しめてる部分でもあったのだろうし、グリーンゴブリンとしてその部分が表面化してしまったのだろう。
若干間抜けな死に様と言い、実にこの時代のアメコミらしいヴィランだ。


感謝祭のシーンの緊張感は最高の見所。
メイおばさんと睨み合うシーンや、ピーターの傷跡に気づくシーン。
宿敵が顔見知りで、互いにそれと知りながらの睨み合いというのはやはりスパイダーマンのカノンイベントなのかもしれない。
その後のスパイダーマン作品の基礎であり金字塔となった作品だ。




※追記

改めて、『スパイダーマン2』を観直して
⭐︎3.5→⭐︎4へ。
このスパイダーマン三部作は
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

『ゴッド・ファーザー』
のように三作で一つの評価をすべき作品で、その点が『X-MEN』シリーズとは大きく異なっている。
キャスト・監督の大多数が続投して作られたこの三部作は、登場人物の感情も物語もしっかり繋がっている。
(しかし3作目は……)
Shion

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