かの庵野秀明が、生涯で1番観た映画だと言う。その数、100回以上。
彼が敬愛する岡本喜八監督作品。
太平洋戦争末期。
攻めるアメリカ兵6万。
守る日本兵1.9万。
日本の第32軍は、沖縄の地で圧倒的な兵力差の熾烈な戦いを強いられる事になる—— 。
小林桂樹、仲代達矢、丹波哲郎らが演じる将校達の作戦立案の様子、市民をも巻き込む戦地の様子、その被害の甚大さ。素早いカット割は、確かに後の庵野秀明のエヴァシリーズに影響を与えたと確信するに余りある。
中学生まで駆り出される戦争の恐ろしさ。
大本営の思惑と、現地沖縄の思惑の違い。
所詮奴らは沖縄を只の島々としか認識していない。尻尾を切って逃れようとする蜥蜴(とかげ)みたい。
市民による集団自決の凄惨さ。
親戚一同が寄り添い合って、手榴弾による自決。死にきれなかった者同士は、棍棒で頭を殴り合い、剃刀で喉元を掻っ切る者も…。
思わず目を覆いたくなる惨劇が続く中、唯一ほっこりさせてくれるのが、我らが田中邦衛その人。将校でも何でもない町の散髪屋を演じた彼は、軍人達と共に塹壕に籠り、軍専属の散髪屋として働く。言わずもがな、田中邦衛が映るシーンだけはほっと一息つける瞬間でもある。
もう1人、名も知らぬ女優さんだけど、臨時看護師として働く女性もコメディエンヌとしてめちゃんこ光っていた。
守りの姿勢の仲代達矢と攻めの姿勢の丹波哲郎との掛け合いが素晴らしい。一呼吸を置いて、「共に死んでくれ」と頼む丹波哲郎。沁みる。
敵の猛攻に耐えきれず、司令部を南に移す案が。しかし、そこには先に避難していた30万人の市民がいる。彼らの命もまた危険に晒され、移動出来ない重症者は塹壕に残され、毒物により処分される。
ああ、もう辛い。
149分もあるんだもん。
長尺だからこそ何を思うって、
終戦以外の何ものでもない。
竹槍を持って米兵と戦おうとする老人。
気が触れた様に踊る老婆。
負傷した脚を切断されれば、
嫁に行けないと嘆く若き女性。
共に死を決意し、手榴弾を持つ軍人に集う女学生。
皆んな、その時を生きた人達。
皆んな、その時に死んだ人達。
これを観て、平和を願わずして何を願うよ。
戦争を経験したという岡本喜八監督。
その説得力が凄まじい。