スズランテープ

晩春のスズランテープのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.5
多分叔母は猫ババしてる。

映画とは優れたショットの連続によって紡がれるものであるということを再認識させてくれる紛れもない傑作。

小津安二郎監督の作品はキャラクターがカメラに向かって正面に映されることが多いということは有名だが、実際に見てみると気づくことがたくさんあった。

まず人物が向き合って会話するシーンが少ない。また、人物が横向き、平面的に配置されることが少なく、画面の奥行きの線上に配置されている。なので正面を向いた人物のヨリのショットは簡単に選択できるし、奥行きのリズムの中でポンポンとショットを綺麗に繋げることができる。というか、この配置であると一般的な映画の単純なカットバックは選択し得ないことがわかる。このショットの感覚は空間が襖などで仕切られ、奥行き豊かに複数の部屋が広がる日本の近代的な和洋折衷住宅の中で必然的に産まれたものであるように感じる。

今作は野暮な説明セリフや演出が全くないが、この正面からのショットはそのストイックな映画作りに大きく貢献している。観客は原節子演じる紀子の貼り付けたような笑顔に潜んだ感情の機微まで想いを巡らせることができ、それが次第に失われていく様子から彼女の心の変化を読み取っていく。

特に典子が父と能を見にいくシーンなどは印象的。キャラクターの視線の動きで感情が交わる。物語が加速する。小津さんはキャラクターの早口な台詞回しや無駄のない演出から、引き算演出の作家の印象を受ける。ただ、その方向性がロベール・ブレッソンのような極限まで洗練されたシネマトグラフすぎる冷たい機能美というよりかは、人間の感情と物語を実に情緒豊かに暖かく描く方向に演出されている。それがジャパニーズ映画の美しさのファンダメンタルな部分なのだと感じる。

ラストシーンはこの上ない美しさ。そもそも花嫁姿の原節子がこの上ない美しさなのにそれを超えてくる!2人が共に歩んできた人生を象徴するようなリンゴの皮剥き。それが終わってから訪れる寂しさ、そして娘が一人前となった満足や安堵といったものが次々と溢れ出てくる。なんたるあたたかな孤独!ありふれた小さな日常のアクションに大きな意味を持たせる映画演出の奇跡!

この映画自体が映画終盤に父親がついた一世一代の嘘のように粋。

この次は麦秋よ!
スズランテープ

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