菩薩

ベロニカ・フォスのあこがれの菩薩のレビュー・感想・評価

4.5
映画の正体は光と闇であり、この映画はある女優の光と闇(病み)の物語である。戦前・戦後のドイツの姿を反映させる様に、往年の大女優たるヴェロニカ・フォスは終始分裂症気味に語りを進めていく。現実の彼女はどこまでも悲惨で孤独で哀れだが、理想(夢)の中に生きる彼女は若々しく煌びやかで希望に満ちている。破滅の後の復興の象徴たるマリア・ブラウン、復興の後の退廃の象徴たるローラ、そして第三帝国への憧憬と敗北の象徴たるヴェロニカ・フォス、此処でも忘れ得ぬ痛みの一つの解放手段として死は用いられていく。光は彼女に十字架を背負わせ、闇は彼女に絶望を背負わせる。搾取に次ぐ搾取、彼女にとっての演技はもはや単なる逃避となり、欺瞞となり、押し込められた監獄の中で過去の栄華に想いを馳せては夢を見る。忘れたくても逃れられない栄光は傷跡へと代わり、彼女を脆い花瓶の様に真っ二つに引き裂いていく。増大していく痛みに比例して増えていくモルヒネ、消えていく財産、いつの間にやら空っぽになってしまった彼女であるが、それでも最後に華々しく、その肖像が紙面に踊る。
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