ボブおじさん

ハンニバル・ライジングのボブおじさんのレビュー・感想・評価

ハンニバル・ライジング(2007年製作の映画)
3.5
小説や映画の枠を超え、今や架空のシリアルキラーのシンボルにもなった〝怪物〟ハンニバル・レクター。彼はいかにして誕生したのか⁈

アンソニー・ホプキンスの怪演で一世を風靡した〝レクター3部作〟の前日譚。原作者のトマス・ハリスが初めて自ら脚本を手掛け、レクター博士の人格がいかにして形成されたかを描き出す。

1941年、リトアニアの美しい湖畔で幼い妹のミーシャと遊ぶレクター少年は、当然だがまだ何者でもなかった。

だが、戦争で両親を失った悲しみも癒えぬうちに、幼い2人を飢えた脱走兵一味が襲い、ミーシャが筆舌に尽くし難い仕打ちを受け、その記憶が後の〝怪物〟誕生の火種となる。

戦時下の餓えた脱走兵とは言え、一味のやった行為は鬼畜の所業ではあり、自分を重ねて考えれば決して許すことはできないだろう。

ただ小説では封印していたレクターの記憶が蘇る描写が圧倒的な筆致で再現され、天才の頭の中の一部を覗き見るような興奮を覚えたのに対して、映画ではその表現も凡庸であり彼の天才ぶりが伝わらなかった。

更に主人公のレクターが〝怪物〟になる前の話なので、当然〝完成形〟を知っている立場から見ると物足りなさを感じてしまう。いや、もう少し厳しく言えば本作からあの知性と品格と残忍性を兼ね備えた〝怪物〟レクター博士の姿が思い浮かばず、前日譚としてはやや期待はずれだった。

内容が内容だけに、適切な表現ではないのを承知で言わせてもらえば、前の3部作と比べると登場人物に華がなかった。

トマス・ハリスは作家としては一流でも脚本家としては、映画としての見せ所を心得ていなかったようだ😢


公開時に劇場で鑑賞した映画を動画配信にて再視聴。


〈余談ですが〉
残念ながら本作は、優れた作家が必ずしも優れた脚本家ではないことを証明してしまったと思う。両者は似て非なるものということだろう。

寡作で知られるトマス・ハリスの作品は、全6作と言われているがその内の4作がハンニバル・レクターが登場する小説だ。これらと併せてデビュー作「ブラック・サンデー」も読んでいるが、小説はいずれも文句なしに面白い。(「ハンニバル・ライジング」での日本に関する記述で気になるところは何点かあるけど😅)

自分なりに小説の順位を付けると
1.「レッド・ドラゴン」
2.「ブラック・サンデー」
3.「羊たちの沈黙」
4.「ハンニバル」
5.「ハンニバル・ライジング」

ちなみに映画の順位はスコアの通り
1.「羊たちの沈黙」
2.「レッド・ドラゴン」
3.「ハンニバル」
4.「ハンニバル・ライジング」

ブラック・サンデーは見たのがだいぶ前なので再視聴してから評価したい。

こうしてみると、あくまでも自分目線だが、いかに「羊たちの沈黙」が映画として良くできていて、公開時のインパクトが強かったかが伺える。

併せて脚本家テッド・タリーが果たした役割の大きさも見逃せないと思う😊