MasaichiYaguchi

はやぶさ 遥かなる帰還のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

はやぶさ 遥かなる帰還(2012年製作の映画)
3.3
「はやぶさ」映画第二弾。
絵画でもそうだが、同じモチーフでも描く人が違うと全く違う作品が出来る。
先に公開された「はやぶさ/HAYABUSA」は、派遣の女性職員を中心に描かれたものだったが、本作は、渡辺謙さん演じる「はやぶさ」プロジェクトマネージャーの山口氏を主人公にして描いた「男のドラマ」。
そして、この作品にはもう一人、重要な登場人物がいる。
山崎努さん演じる町工場の経営者・東出である。
この存在によって、本作品は単なるサクセスストーリー物ではなく、深みのあるドラマになっている。
この作品の大きなテーマは「物づくり」。
オープニングロールで、「はやぶさ」本体内部の基板や部品をクローズアップしたことが何よりも象徴的だ。
物語は内之浦宇宙空間観測所から始まる。
ロケット発射管制室は、床板が剥がれ、椅子もボロボロになっていたりと、NASAの立派な管制室を映画で見慣れているので愕然としてしまう。
正に、「ボロをまとったマリリン・モンロー」
NASAの十分の一の予算で、宇宙事業を行っているJAXAに頭が下がる思いがする。
ロケット発射は成功、地球の軌道にも乗り、やがて「はやぶさ」は一路「イトカワ」へ。
「はやぶさ」の任務は「イトカワ」からのサンプルリターンである。
「はやぶさ」の長い苦難の航行は、この任務の遂行から始まる。
この「はやぶさ」の航行と並行して、町工場の経営者・東出の日々が描かれていく。
私は、町工場が密集した下町で生まれ育っているので、高齢な少数の熟練工で成り立っている職場の雰囲気が体感として理解出来まる。
直木賞の「下町ロケット」で描かれたように、技術立国である日本は、これらの零細企業によって支えられてきたのだ。
頑固一徹で職人気質の東出は、大企業の傘下に入らず、庇護も受けず、黙々と宇宙事業に陰ながら貢献して来たが、不況の煽りで倒産寸前だ。
そしてもう一人、悲哀を感じさせる人物がいる。
JAXA出向職員であるNECの森内。
イオンエンジンの同じ開発者でありながら、JAXAの藤中と森内の立場は全く違う。
「はやぶさ」トラブル時の、イオンエンジンの扱いでの二人の対立は、同じ電気メーカーの人間として、森内の苦悩が痛い程に伝わって来た。
「はやぶさ」プロジェクトに携わった無数の無名の人々。
これら「縁の下の力持ち」によって、この成功が導かれたのだと、改めて痛感します。