のすけ

スティングののすけのレビュー・感想・評価

スティング(1973年製作の映画)
4.3
「The Sting」 1973年

監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:デヴィッド・S・ウォード
出演:ポール・ニューマン
   ロバート・レッドフォード
   ロバート・ショウ
   チャールズ・ダーニング
撮影:ロバート・サーティース
音楽:スコット・ジョプリン
   マーヴィン・ハムリッシュ

巧妙な視点変更によって観客をいとも簡単に騙すことができると証明したサスペンス映画の模範的な映画。
 本作の最大の特徴は全知能的な視点のように見せかけて、巧みに視点を切り替えていることである。主人公のジョニーに限らず、ジョニーを追う刑事、ギャングの場面も描かれる。しかし、それぞれのシーケンスには細かな仕掛けがなされている。例えば、ジョニーがFBIに裏切りを持ちかけられるシーン。私たちはこれをジョニーの視点として見てしまう。だが、これは実際には刑事スナイダーの視点である。私たち観客はつい、主人公のジョニーと見ているものを全て共有しているという錯覚をし、ジョニーが追い詰められていると誤解するのである。実際には私たちの視点はこの時点では刑事スナイダーの元に置かれており、スナイダーと共にジョニー達に騙されることになる。
 その他にも私たちは監督達によって「全てを知っている」と錯覚させられ、騙されることになる。サリーノがジョニーと寝ていた女性であり、ジョニーに迫るシーンも秀逸である。私たちはサリーノがヒロイン的存在と捉え、疑うこともなく、むしろジョニーの護衛をサリーノなどと疑ってしまう。これは前述した視点の切り替えによるものに加えて、見せるものと見せないもののバランスによってもたらされる。監督はこの物語にまつわる全ての人物の挙動について惜しむことなく全て見せているように思わせて、実は大切な部分が欠落した状態で見せている。そのことによって、私たちは欠けている部分だけ見せられてとんでもない誤解をするのである。
 また、冒頭においてモトラというギャングの下っ端の男の様子が入念にスクリーンに映される。まずは足元からジワジワと見せ、やっと顔が出たと思えば、早速仕事ができて動き出すのである。観客の多くは彼が主人公であると思ってしまうだろう。しかし、彼はただの一時的な登場人物でしかなく、彼を引っ掛けるジョニーこそがこの物語の主軸なのである。
 本作は絵や構図的には特段突出した何かは存在しないが、その話の展開と巧みな視点変更は観客を騙すことに全神経を注がれていて、私たちはまんまとその手にかかるのである。多くのユーモアを含み、常に私たちの考えの裏をついてくる展開は非常に優れており、娯楽的要素を含みながら優れたサスペンス映画と言えるだろう。
 
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