ドント

血は渇いてるのドントのレビュー・感想・評価

血は渇いてる(1960年製作の映画)
3.8
 1960年。うわぁ、最悪だァ。業績不振の企業で「僕の命と引き替えに、皆をクビにしないでください!」と叫び自殺を図った男。初老社員に止められ大ケガで済んだ彼に目をつけたのは生命保険会社。「他人のために命をかけるとは立派!」というテーマで彼をCMタレントとして起用する……のだが。
 視聴リストに入れていたら吉田監督の訃報があり追悼のつもりで観たのがドス黒いドブ川のような本作というのはどうかと思うが、観たものは仕方ない。おそらく自殺未遂も「なんだかよくわからなくなって」やってしまったに違いない空虚な男、彼を偶像に仕立て上げる広報女、保険会社の連中、なんだか冷たい奥さん、でっち上げスキャンダルで小銭を稼ぐ蛆虫以下の記者ほかろくな人間が出てこない。
 大衆の過激なノリやマスコミを描く手つきも露悪的で実にわるい映画なのだけれどこれまったく悪ノリはしておらず、真面目に怒っているのがピンピンと伝わってきて時間が進むにつれてこっちの気持ちがざくざくのナマスにされていく。
 空虚だったのに祭り上げられて、最初は「あの……世の中のためになるんでしたら……」とオドオドしていたのに、徐々に「そうか、世の中は僕を必要として、信じてくれているんだ」と偶像に呑み込まれていく佐田啓二、この顔と演技が大変によろしく怖い。蛆虫以下(2回目)のでっち上げ記者の「そんな善人いるわけねぇや! 引きずり下ろしてやんよ!」という精神も下衆の極みだがそういう奴はいるしそういう心持ちはあるし、不快ながらもリアリティがある。
 60年以上前の作だけど現代であっても通用する……いやむしろSNSや動画サイトで個人がコンテンツとして「売られている」現代、偶像虚像が普通の一般市民をも呑み込みうる今だからこそ痛いほどに響くものがある。みんなインターネットとかいうのはやめて自然に触れるなどしなきゃダメだと思う。
 吉田監督の白黒は目に焼きつくようで、特に白い肌の質感、黒の濃さの捉え方が素晴らしい。冒頭のトイレのシーンのすごさからがっちり掴まれ、ゴミ捨て場の長回しと遠景には圧倒された。3度ほどあるダンスの場面も印象的だ。私たちは踊っているのか、踊らされているのか? いやぁすごい映画ですね。
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