み

熱帯魚のみのネタバレレビュー・内容・結末

熱帯魚(1995年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

コメディと思っていたら意外に重たい。
台湾の受験戦争は日本以上に激しいのか。


高校受験を控えた中3の男の子が、小学生の男の子と一緒に身代金目当てで誘拐されて、でも受験生だと分かった途端、誘拐犯とその家族が全力サポートするという、なんともコミカルなあらすじではあるんだけど、
誘拐犯のリーダーの過去、命よりも受験を優先する親や世間、受験生の行方ばかり報道するメディア、育児放棄、格差社会、いろいろな問題が一貫して描かれていた。

しかも最後の女の子の手紙。好きだった子があんなにも重く苦しい過去を背負っていたことを知った時、リョウくんはどんな気持ちだったんだろう。それでも、彼女から譲り受けた熱帯魚を見ながら夢を見続けていてほしい。

ちっちゃな男の子も相当ヘビーな家庭環境のはずなのに、大人たちのことなんか気にせずに自分らしく生きていてたくましかった。でも本当に可哀想。そんな彼もリョウくんに教えてもらったことを信じて夢を見ていたのだから、リョウくんの空想の世界は輝いていて価値のあるものだと思う。

想像力が豊かなことは、子供っぽいと馬鹿にしてくる人もいるけれど、誰にでもできることではない。大人になればなるほどどんどん財産になってくるから、大切にしてほしい。 


自分が受験生だった時は確かに生活の中心が受験一色で、それのことばかり考えていたけど、流石に誘拐された時に親が無事に返して、じゃなくて無事に受験させてって要求してきたら萎えるわ。

大人たちは命よりも受験なわけで、そんな人たちのところにまた戻らなければいけないのかという失望感。
一方で、勉強がしたくてもできない、夢見ることを失ってしまった子がいる現実と比べたら、勉強ができる自分の環境はまだ恵まれているのだろうか、という難しい葛藤。

唯一、リョウくんをはじめとする夢を見る子供たちをつなぐラジオ番組だけが、見ていて何もかも忘れられる心の拠り所となっていた。ラジオから流れる優しい女の人の声と、夢のお話。ネオンのような色の中で泳ぐ熱帯魚たち。
そしてラストシーンのビルの中を泳ぐ大きな熱帯魚。 
苦しいことばかりだけど、熱帯魚が泳ぐこの美しい世界をずっと見続けていてほしい。
み