ベトナム戦争に従軍する新兵たちの物語。前半は訓練所、後半は戦時下のベトナム。どのような過程で人間が「殺戮マシーン」になっていくか、がここには描かれているように思う。
訓練所の鬼教官ハートマン軍曹は強烈な罵詈雑言や体罰で新兵たちの人間性を奪っていく。どれほど理不尽であっても、ただ上官の指示に従い口答えせず行動することを叩きこまれる。隊列を組みランニングしながら声を合わせて歌うのは、無論楽しいからではない。自己を無にしてただ従うことに当たり前の感覚を植え付けられている。その感覚に少しずつ心が蝕まれ狂気に陥るものも出る。けれど、まだ戦場ではない。ここで脱落するなら戦場では「役に立たない」のだ。
そして戦火の中へ。死と隣り合わせの日常。
大砲を打つ戦車のとなりで、死者の骸の前で、大きく破壊された街で、広報のインタビューには笑顔で答える。どこか感覚がマヒしている。けれど眼前で仲間が撃たれれば上官が止めるのも聞かず銃を乱射する。本当は怖いのだ。心底怖いのに蓋で塞がれている。ひとたび人を殺してしまえば尚更だ。その記憶と感覚は深く押し込められる。でなければ、まともではいられない。生きていけないのだ。「ミッキーマーチソング」を歌いながら焼野原の街をゆく兵たちの姿は恐ろしくも悲しかった。スタンリー・キューブリックの冷静な目がその悲惨さを映し出している。