記録
ヒッチコックのお気に入り、本人が最高傑作とまで語る今作、その言葉の重みを感じさせないほどの完成度だった。シンプルが故に面白く、恐ろしい。
終盤の指輪のクローズアップは、(個人的)クローズアップ選手権でこれからも上位に鎮座するだろうと思うほど素晴らしいものだった(ちなみに1位は『サンライズ』のおばあちゃんの顔面クローズアップ)。
指輪だけでなく、どのショットも想像しえないほど考え尽くされた上で撮られている。階段を使った視覚的な上下関係の提示、図書館で新聞記事を読んだテレサ・ライトを上昇するカメラで捉えるショットなど、全てのショットが多くの情報、表情を持っている。ジョセフ・コットンがテレサ・ライトへ視線を向ける時、必ずと言って良いほど上から下への直線が引かれる、見下ろしていることがほとんどだ。反対に、テレサ・ライトはキラキラした上目遣いで彼を見つめる。これだけでも2人の関係性が分かる、後半になると彼女の様子がまた変わってくるのも良い。
脚本も練りに練られていて、ジワジワと恐怖が溢れだしてくる。その波が衰退することなく、ポツポツと咲いていた恐怖の花たちが、ラストで一面に咲き渡る。あぁなんと厭らしくて面白い。
ヒッチコックのことだからブロンド美女を起用しているのかと思いきや、黒髪美女。彼が「ブロンドは最高の犠牲者になる」や「彼女たちは、血に染まった足跡を鮮やかに見せる新雪のようなものだ」と語っていることから、血の表現や女優の死が登場しない映画はブロンド女優じゃないこともあるのかなぁ、知らんけど。
愛しているが故の破滅、恋する乙女は相手のことをよく見ているのだ!俺もこんなに見られたいものだな!
2023,321本目 12/9 DVD