垂直落下式サミング

モンスターの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

モンスター(2003年製作の映画)
4.0
シャーリーズ・セロンがすごい役作りをして挑んだスリラー。
売春婦のアイリーンは、ゲイバーでレズビアンのセルビーと出会い意気投合。二人で一夜を過ごすホテル代を稼ぐ為にアイリーンは客をとるが、客から暴行を受けその男を銃で撃ち殺してしまう。その後アイリーンは一念発起し、セルビーと二人で暮らすために売春をやめて堅気になろうとするが上手くいかず、自分を受け入れない社会に絶望し、やがて金を得るために強盗殺人に手を染めていくようになる。
子供の頃は女優になりたかったという落伍者のアイリーン。その肥大した承認欲求を一時でも満たしてくれた、自分を綺麗だと言ってくれた年下の女の子が可愛くて仕方ない。何でもしてあげたいし、どんな我が儘もきいてあげたい。
実際におきた事件がモデルということだが、セルビーの甘ったれ具合がもうひどくて、アイリーンこそが惚れた弱味に漬け込まれた被害者なのかもしれないと思わせる。
彼女たちがふたりで一緒にいたいというのは、経済的な打算があるわけでなく、どちらも未熟な欲求によるものだ。二人が声を荒げ口論をする内容は、「アナタがやった」「アナタのために」「アナタのせいだ」「アナタが言ったから」「アナタが望むから仕方なかった」という依存型人間同士の幼稚な責任の擦り付け合いで、どっちもどっちのダメ人間である。そんなことだから、物語は二人をどん詰まりのどん詰まりへ導いてゆく。
道を踏み外してしまう彼女たちは勿論不幸なのだろうが、それより不幸なのは彼女と関係してしまった被害者たちであるはずで、しかし、それでも人生がハナから詰んでいた主人公アイリーンがいちばん不幸であるかのように見える。
それでも、アイリーンは毅然とした意思の強さを持ち続ける。それは社会の底流に生きる人間が虚勢を張って貫こうとした精一杯の強がりにすぎないのだけれど、それでも彼女は強い。「私らのような人間は誰からも虐げられる。でも虐げられたって負けやしない」この言葉が暗鬱なこの世界を禍々しくも爛々と照らし出す火種となって、端から端へと燃え広がってゆく。世界のどこかでこんな人達が生きているし、彼等にだって救いや癒しが必要だ。二人の女がモテルのベッドで抱き合う場面は、アイリーンの荒れた肌が、未だこの世の辛苦に染まっていないセルビーの柔肌に許しを求めているようだった。
アイリーンが数メートル先が白く染まるほどに霧がたちこめた道路でヒッチハイクをする場面は、現実とも夢現ともつかぬ情景であり、まさしく愛を嘘で塗り固めて夢想を生きた女にふさわしい演出だった。