キャッチ30

バベルのキャッチ30のレビュー・感想・評価

バベル(2006年製作の映画)
3.8
2006年はメキシコ三人衆"スリーアミーゴズ"の当たり年だった。アルフォンソ・キュアロンは『トゥモロー・ワールド』、ギレルモ・デル・トロは『パンズ・ラビリンス』、そしてアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは『バベル』と揃って公開された年だ。どの作品も力強く、三人のメキシコ監督はそれぞれ躍進していく。

物語は一発の銃弾から始まり、モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本と別々に住んでいた人々の人生が交錯していく。同時に負の連鎖が続いていく。

題名の「バベル」とは旧約聖書の「創世記」第11章に登場するバベルの塔に由来している。人々は天まで届く塔を建てようとしたが神は怒り、人々に別々の言葉を話させた。その結果、人々は混乱し、統制が取れずに全世界に散らばったと言われている。

多くの観客が難解だと感じてしまうのは、バラバラな時間軸のせいだろう。イニャリトゥと脚本家のギジェルモ・アリアガは意図的に時制をずらしている。そうすることで出来事を並列に描き出し、映像のカオスを産んでいる。

もう一つ、イニャリトゥは「ディスコミュニケーション」というテーマを提示している。この映画では言葉が通じなかったり、心が通じなかったせいで分かり合えない人間模様を描写している。

そう考えると菊地凛子演じるろう者のチエコの登場にも合点がいく。チエコは母親を自殺で亡くし、父親とも上手くいかず、ろう者であることから恋ができないと苦悩する。その孤独を埋めようと彼女は男たちを誘惑し、セックスでコミュニケーションを取ろうとする。菊地凛子は刹那的だが、繊細な演技でろう者を体現している。特に、自宅での刑事との触れ合いが印象に残っている。