カタパルトスープレックス

銃殺のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

銃殺(1964年製作の映画)
4.7
ジョセフ・ロージー監督の戦時裁判映画です。脚本はエヴァン・ジョーンズ。前作『召使』(1963年)に比肩する傑作。主演は引き続きダーク・ボガードです。

テーマは「個人を埋没させる集団の狂気」です。舞台は第一次世界大戦の戦場。脱走の罪で裁判にかけられるアーサー・ハンプ兵卒(トム・コートネイ)。その弁護を引き受けることになるチャールズ・ハーグリーヴズ大尉(ダーク・ボガード)。ハンプ兵卒は戦場で味方の手によって銃殺刑に処されてしまうのか?という話です。

ハンプ兵卒は非常に素直に脱走した理由を答えます。三年間戦場にいて怖くなったから。そりゃそうだよ。人間として当然ですよね。しかし、それが通用しない集団心理。これが怖い。ジョゼフ・ロージー監督も赤狩りを逃れてイギリスに逃れたので、その経験も背景にあるのでしょう。集団の狂気って本当に怖い。

キャラクター描写もとても良い。靴職人で口下手。上手いことが言えず、素直に答えるしかないハンプ兵卒。規則よりも正義を上に置くハーグリーヴズ大尉。この二人の個人が軍隊という集団に対峙した時の無力感と勇気。この対比がとてもよく描けています。

しかしなんと言ってもカメラワーク。前作『召使』でも見せたビシッと決まった一つの構図が移動して、次のビシッとした構図で止まる、そしてまた移動して三つ目のビシッとした構図。スゲえ!『召使』ではハンディカメラだったと思うのですが、これはカメラドリーかなあ。あれは撮影監督のダグラス・スローカムの技だったと思ってましたが、今回は違う撮影監督。たぶん、ジョセフ・ロージー監督自身の独自のディレクションなんですね。