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灼熱の魂の都部のレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.2
今や『DUNE』の監督として知られるドゥニ・ヴィルヌーヴの出世作であり、某年の外国語映画アカデミー賞の最終候補作にも上がった作品でもあるが、その前評判に恥じない非常に研鑽された完成度を目前とすると『……傑作』と絞り出すように呻く他ない。

知られざる母のルーツを辿る旅路と母の過去が入り交じる構成は、俯瞰で見るにシンプルなようで非常に考えられており、情報量の操作と布石の張り方にとかく無駄がない。本作の『思わず声を失う真相』は衝撃的でこそあるが前提を考えると勘が良ければすぐ思い至りそうなものなのだが、気付かせない為の情報のチラつかせ方が上手いし、幾重にも衝撃の波を与えながら母の過酷な生涯を語ることで興味関心の歩幅を調整する綿密さも兼ね備えている。凄い……。また時系列が交差し語り部と情報量が異なる複雑な物語でありながら、サラリと呑み込みやすい物として組まれた章の立て方も巧みだ。

また真相を知るジャンヌ&シモンの双子の演技が、物語の壮絶さをより自然に強調する役目を十全に果たしており、演技としてのハイライト部分の多さが完成度を底上げしている。特に中盤〜終盤に掛けて、真相に直面する彼等の姿はそれに相応しい名演により飾り立てられ、物語上に浮かび上がる破壊的なエモーショナルを見事に完成させるのだ。

たしかに作品として尺が長く感じる部分は否めないが、美しい中東の景観を舞台に黒箱に包まれた母の過去に迫るというドラマチックな筋書きにその速度は一致しているように感じて、事態の混沌さの加速に乗じて物語が大きく動く采配は適切であると感じる。

総評として、ドゥニ監督のある種の到達点とも言える本作が傑作であることに疑いはなく、だからこそ『DUNE』や『メッセージ』などのドゥニ節の効いた大衆映画のヒットに乗じて、その原点とも言える本作もまた再評価されてほしいと強く希うに値する一作である。
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