えいがドゥロヴァウ

イリュージョニストのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

イリュージョニスト(2010年製作の映画)
4.2
美しい背景の描画が目を引きますが
ジャック・タチが自身の娘を想って書き上げたこの作品の脚本は
喜劇作家としての彼のイメージとはかけ離れた滋味深い悲哀を打ち出しております

ノスタルジーと一言で片付けてしまえば
それはそれは簡単なのだけれど
愛着のあるものが時代の波に呑まれて失われることへの
喪失感、悲観、そしてそれらに比例する愛憐や慈しみ
質屋のショーウィンドウに飾られる腹話術人形
僻地を転々としながら細々と手品を披露するマジシャン
そして道化師の自殺…
娯楽が多様化し情報伝達のインフラが発達して
通用しなくなっていく芸能の数々
これは、ジャック・タチが娘に託した自らの宝箱を
シルヴァン・ショメがアニメーションの手法を借りて
現代に呼び覚ましたレトロスペクティブであります

感傷は人に寄り添い慰めてくれるものですが
それに依存してしまってはその先には進めなくなるもの
でも、この作品は折に触れて観たくなる
観なければいけない気にさせるような
ささやかな、ミニマルな幸福の存在を教えてくれる
そんな大切な作品です