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カラマリ・ユニオンのSのネタバレレビュー・内容・結末

カラマリ・ユニオン(1985年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

アキ・カウリスマキ監督長編第二作。

15人の男たちは皆フランクという名前でサングラスをかけている。ここから既に面白い。
彼らはイカ墨同盟=<カラマリ・ユニオン>という名のメンバーだった。
パンクな奴もいれば、ダンディな男、詩人、労働者もいる。
貧困の街を捨て理想郷<エイラ>を求めてそれぞれのルートで旅立つものの、理想は遠く、銃弾に倒れる者、仲間を見捨てる者、自殺する者…。明らかなストーリーはなく断片的な逸話で進む中でひとりまたひとりと脱落してゆく、寓話的なノワール不条理劇。

ブロンドの美しい恋人を持つ一人のフランクが、彼女をエイラへと誘うがあまりの執拗さに銃で殺される展開や、あるフランクが美容室内に元カノらしき女性を見つけ話しかけるが、彼女を妊娠させ放置したことが分かると美容師と客の女性たち全員に取り抑えられ殺される展開は、自業自得ながら殺す瞬間を見せないのが非常に緩くて笑えた。

最後に残るのが、マッティ・ペロンパーともう一人のフランクたったの二人。海を渡るのに小舟でエイラに旅立っていく映像に、哀愁漂う音楽が流れるが最後に爆発のような音が鳴り終る。理想郷は理想でしかなく、幸せを求めた男たちの最期の儚さが切ない。

若きアキ・カウリスマキ監督が、運転手役としてワンカットのみカメオ出演しているが、痩せて美形ながら、少し面影を感じさせた。

都会の夜の表情をあえてモノクロで表現した映像と、シーンごとに選曲された音楽が絶妙なセンスでマッチしており、情けないバンドが名曲「スタンド・バイ・ミー」を演奏するシーンも味わい深い。

ドストエフスキーの原作を翻案したシリアスな長編デビュー作『罪と罰』とは打って変わり、モノクロのスタイリッシュな映像とオフビートなムードを掛け合わせた作風で、初期ジャームッシュ作品とも近い趣き。
処女作のプレッシャーから解放され、リラックスしてやりたい事をやったのではないだろうか。

何度か見ると発見がありそうなジワる面白さがある作品。
15人のフランクを演じた役者は後のカウリスマキ作品でも常連となっており、レニングラード・カウボーイズの前身といった趣きである。

①2022/07/02 DVD
②2022/07/06
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