kkkのk太郎

グラン・ブルー完全版 -デジタル・レストア・バージョン-のkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

実在するフリー・ダイバー、ジャック・マイヨールとエンゾ・マイオルカをモデルにした、フリーダイビングに取り憑かれた男たちの姿を描く海洋ロマン。

監督/脚本は『サブウェイ』のリュック・ベッソン。

主人公ジャック・マイヨールのライバル、イタリア人ダイバーのエンゾ・モリナーリを演じたのは、『サブウェイ』にも出演している名優、ジャン・レノ。

フランスで熱狂的な支持を受け、「グラン・ブルー・ジェネラシオン」という言葉が生み出されるほどの人気作。
日本でもカルト的な人気のある本作を初鑑賞!

なるほど、10代の頃にこの作品に出会っていたら、間違いなく人生を狂わされていたであろう、どこまでも美しく、どこまでも哀しく、どこまでも爽やかな一作だった🐬

リュック・ベッソン自身が元々ダイバーだったということもあり、とにかく監督のダイビング&海に対する愛が、映画から溢れ出している。
本作のように、監督のパッションに溢れた作品に出会えるのは稀なことであり、こういう作品を観られた時の幸福感は何物にも変え難い。

まずフリー・ダイビングという題材が良い!この題材を選んだだけで花丸💮
青い空と地中海の青い海。だが、ダイバーたちはそういった表面上の美しさではなく、もっと本質的な深層へと深く深く潜り込んでゆく。
深く潜れば潜るほど太陽の輝きは消え、暗い暗い、孤独な孤独な場所へと彼らの体は導かれる。
そこは否応なく「死」を意識させられる場所である。

生命の源である海の中を、深く深く潜るという行為は、生きることへのメタファーのよう。
愛する恋人も、生まれてくる子供も、突き刺さるように死へと向かって沈んでいく本質的な孤独とは関係がない。
精神の深み、死と隣り合わせの場所へと降りていった時、そこに見えるもの、それこそがその人間の存在意義=ル・グロン・ブルーなのだろう。

この『Le Grand Bleu』という原題も、なにやら詩的な雰囲気がして好き。
フランス語で海といえば「Mer」。「Mer」は女性名詞なので「La mer」となる。しかし、本作の原題の冠詞は男性冠詞の「le」。
これは「Grand」が男性形容詞だからなんだと思うけど(フランス語はわからない💦)、それ以上に男の物語を描いた本作を、冠詞一つで端的に表そうとしているような気概を感じる。

雰囲気もテーマもかなり好きな作品。とはいえ、正直結構不満点がある。
冒頭の、1965年のシークエンスにおける子役の演技はかなりやばい。もう少しなんとかならんかったのか…。
それにジャックの父親が死ぬ場面の、あのわざとらしい死亡フラグと演出とか、結構キツかった💦
出だしから、大丈夫か、この映画!?と思ってしまった。

もう少し『ロッキー』的な、男のバトルの話かと思っていたらそうでもなかった。
個人的にはそういう少年漫画的な展開が好きなので、ちょっと残念。
それでもイタリアで開かれた世界大会までの展開はかなり好み。熱い男のバトルの世界にワクワクします。
しかし、この世界大会が終わってから、しばらくの間は物語の推進力が失われたかのようなグダグダした展開が続く。ここは正直かなりキツい。
自分は尺が30分くらい短い『オリジナル・バージョン』を鑑賞していないのだが、多分このあたりをカットしているんじゃないかと予想。
本当に、次の大会が始まるまでの展開は怠いし長い。

エンゾが死ぬあたりの展開もちょっと無理あるよなぁ、と思いながら観ていた。
勝手に海に沈めたら駄目だろう。マンマに死顔を見させてやってくれや。
というか、実在の人物をモデルにしておきながら、本人が存命にも拘らず映画中で殺すというのも結構思い切ったことやっているなぁ、と思う。ご本人はどう思ったのかしら🙄

まぁ不満点もあるんだけど、映像的な美しさは完璧だし、giftedのみが解することができる孤独というのも上手く描けていたと思う。
何より、エンゾというキャラクターの魅力が最高だった!そりゃあジャン・レノ人気者になるよなぁ。

ジャックは圧倒的な天才。普通の人間がどうこう出来るレベルからは逸脱している。
そんな男に、どこまでも食らい付いて行く漢エンゾ!一番美味しいキャラクター!
ジャック不在の世界選手権で勝ってもしょうがねえ!ジャック探してこい!からの、ジャックが優勝した時には素直に負けを認めてプレゼントまで渡す人間の鑑。

そこから、おそらくは血の滲むような鍛錬を繰り返したのだろう。世界記録を上回る115mという大記録を叩き出し、これでジャックに勝った…!と思ったら…。
うーん、完璧なキャラクター造形。大男なのに愛車がチンクシェントというのも、『カリオストロ』みたいで楽しくなる。1万ドルぼったくったぜー!イェー!のところとか、本当にルパンみたい。
もうあの姿を見ただけで、エンゾが大好きになっちゃった💕

あと、本作を観て感じたのは「なんか北野武の映画みたいだなぁ」ということ。
武よりベッソンの方が映画監督としてのキャリアは上なのだから、武がベッソンっぽいというのが正しいんだけど。
あのイルカを担架で運ぶシーンとか、凄く北野作品っぽい。男2人でえっちらおっちら運んでいる姿を真横から映すという撮り方まで、武っぽかった。
あの日本人選手団のシーンとか、たけし軍団がやっていてもなんの違和感もない。
これは武がベッソンから影響を受けたというのもあるだろうし、この2人が同じような監督から影響を受けているというのもあるんだろう。
北野映画がフランスでバカ受けするという理由が、本作を観てなんとなくわかった気がした。

いや、とにかくいい映画を観た♪
フリー・ダイビングに興味が湧いちゃった。
ジャック・マイヨールが世界で初めて100mの深さに到達したのが1976年。
そこから44年経ち、今では世界記録はなんと214m!!とんでもない進化を遂げている。
因みに、ジャックたちがやっているのはフリー・ダイビングの中でも最も危険と言われるノー・リミッツという競技。あまりに深く潜れすぎて危険なので、現代では公式大会からは外された種目のようです。

現実のジャック・マイヨールも、最期は自ら命を経ってしまった。
海と深く繋がりすぎてしまったからなのだろうか。
生と死、愛と孤独、生きるとはどういうことかを考えるきっかけになる、歴史に残るのも納得の傑作!
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