くりふ

ベティ・ブルー 愛と激情の日々のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【荒馬の女 】

フィルムの上映が厳しくなる中、本作に劇場で会えたのは幸運ですが、上映条件がひどくて…。画質は白が飛び、音のレベルは耳障り。そして酷なぼかし!レンタルできる版では丸見えなのに…。

別にJ=H・アングラードのちんこ見たいワケじゃないけど、本作は主役二人の全裸暮らしに意味があるはず。HDリマスター版というのに、退化したようで勿体ない。

映画自体はやっぱりよかった。ジャン演じるゾーグの、ベティへの決断が、やっぱり許せなかったけれど、二人の、温かなミルクのような心地よさと、突如切り裂かれるような痛みが伴う世界に、やっぱり惹かれてしまいます。

原題「37°2 le matin」には、女が一番妊娠し易い条件、の意味があるそうで。愛情からまっすぐセックスにのめり込み、その先を求めるベティにとって、このタイトルは残酷ですが、これで彼女の空虚がストンと伝わってきます。

同題原作は未読ですが、作者P・ジアンはビートニク影響下の作家だそうで。確かにゾーグとベティの自由気儘さには、ヒッピーの面影がありますね。自分たちの自由は謳歌するけど、世界は変えられない所もヒッピーぽい(笑)。

で、ネットで見つけた情報で面白かったのが、原作者が主役の二人について、二人の人物なのかどうか、よくわからぬまま書いていた、というコメント。女性と男性の部分を併せ持つ、一人の人物と思い込んでいたようなんですね。映画版がそれに忠実とも思えないのですが、二人で一人と捉えてみれば、成程、と思えるところが出てきます。

それを元に色々書いてみたんですが、ややこしくなってきたので、ここで詳しく投稿するのは止めました(笑)。

ゾーグの最終決断と、時に漂う寂寥感の因はこれか?とは記しておきたい。

そして「セックスでひとつになる」ことができないジレンマも重いですね。J・J・ベネックス監督の演出は表層的とも思えて、凄味は感じないのですが、ベアトリス・ダルの鮮烈と、ジャン=ユーグの抱擁力を引き出したのがいい。

ダルさんはフレンチ娘の系譜だと、本作ではB・バルドーの後継でしょうか。BBではなくVBですが。バイオレンス・バルドー(笑)。…未来の屋敷女。

しかし本作での、妖怪化する前の可愛らしさは貴重ですね。見惚れます。似合い過ぎ裸ワンピ。猫女と見せかけ、実は犬っぽい上目使いのピュアネス。

撮影で、絵葉書チックな情景描写は、鼻についたりもするのですが、飛びぬけて好きなショットもあります。燃え上がる自宅から煙の向こう、彼方に夕日を捉えた画で、炎×炎の乗算で二人の未来を暗示し、見事でした。ここは、それなりにリマスター効果も出ていて、よかったです。

添えられる音楽もいいですね。サントラはいまだに、たまに聞いちゃいます。

初公開時の短いバージョンでの上映でした。こちらの方が私は好きです。饒舌になっていないので。

でもやっぱり最後を迎えると、何で根気よく待ってやれないんだゾーグ!と、彼に叫びたくなってしまうのでありました。

<2012.11.3記>
くりふ

くりふ