くりふ

キングコングのくりふのレビュー・感想・評価

キングコング(1976年製作の映画)
3.0
【石油とディープ・スロート】

昔々、子供心で劇場の大画面をみた時は、着ぐるみコングに違和感なかった。今、小画面でみると、動くフィギュアに嵌ってゆくヒト科の男に映ります。

この倒錯感が面白く、フェチ映画としての魅力を再発見してしまいました。

着ぐるみで演技したのは、特殊メイク担当のリック・ベイカー本人ですが、 ジェシカ・ラング演じるドワンをお持ち帰る動作が、全く気弱げな青年です。

で、「偏愛主義のブタ猿!」と罵られるだけある、彼女への熱視線がキモイ!…この台詞爆笑しましたが、正確な訳が知りたいです。英語字幕なくて。

ギラーミン監督は、ラブストーリー(変態風味)を作りたかったようですね。分かち合う場がなく孤独、異種の小さな女(の似姿)に恋するしかない大男と、女優になる欲望だけはあっても、空っぽな女とが何故か惹かれ合う奇妙な話。

怪獣映画としてのパワーは弱く、どこか冷めていますね。

オリジナル版には、秘境映画の限界を踏まえ、本物を都会に連れて来たる!という似非ドキュメンタリー出身山師映画人の心意気と欲望が渦巻いて、それが背徳的なロマンともつながっていたと思います。大恐慌なんか吹き飛ばせ!という開き直りみたいなパワーもありましたが。

第一次オイルショック後に現れた本作は、何だかコングに元気がない。タンカーの油桶(笑)シーンが象徴的ですが、空虚を埋める存在のようです。

金儲けのオマケでしかないような、まさにしらけ世代の怪物に思えます。物語の途中で、すでに諦観漂わせてるし。

だからラストが余計に痛々しい。コングを襲うヘリは、実際にベトコンを殺しまくったタイプだそうですね。

一方のドワンは、ディープ・スロートに救われた女、という安さ爆発が凄い。黒くて面白いですが。(当時)今、リンダ・ ラヴレースの伝記映画も制作中だし。昨今のジェシカさんからだと、PV風描写も痛々しい、驚きのペラッペラな役。

楽屋オチになりますが、香港映画に出る予定だった、と言うのが面白くて。もし香港にたどり着いていたら、『北京原人の逆襲』のレディ・ターザンが、彼女だったかもしれないわけですよ、この話からすると。

今は亡きWTCでの飛び移りアクションが、貴重だったりもしますが、やっぱり斜め視線で楽しむ他は、全体的にはトホホな出来だと思います。

最後の最後で、ちょいとピリリとなる狙いは感じるんですけどね。マスコミの関心が、あっという間に野獣から美女に移るんですよ。ここ、例の名セリフを意識してるんじゃないか、とは思いました。

<2013.1.8記>
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