このレビューはネタバレを含みます
私にとって、大事な氣付きをくれた作品のひとつ。
天才数学者ジョン・ナッシュの半生を描いた今作。
数年前に前情報なしに鑑賞。
前情報なしで良かったと想う。
物語の序盤、一体何が起きてるのか?と散々ハラハラしてから、ナッシュの精神に起きていたことが明らかになる。
孤独というものはここまで人の精神を脅かすものなのか。
ナッシュに観えていた世界のリアリティに驚愕した。
天才には孤独が付き物なのか分からないが、ナッシュは周りの人間と違う現実を生きるようになっていた。
それは周りの人間には一切観えていない、ナッシュにしか観えない幻覚。
幻覚の世界の住人は、ナッシュの親友を名乗り、ナッシュの才能を真に認める者を名乗り、現実世界との繋がりを切ろうとする。
幻覚とリアルの狭間ーというか、ほぼ幻覚に飲み込まれそうになっていたにも関わらず、リアルに目覚めるくだりは圧巻である。
現に存在する自分を観、愛してくれる者は誰なのか?
そこに氣付いた瞬間から、幻覚は力を弱めていく。
ある分野の才に長けていることと、揺るがない自己価値への信頼を持つことは実は何の関連性もない。
後者を分母として前者が豊かに実るのだが、ナッシュのような天才でさえ前者を分母にしようとして精神を病んでしまった。
才能がひとを豊かにするのでなく、誰もがもともと豊かなのだ。
そこに氣付くための、とてつもなく尊い経験を追体験できる名作。