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クリーン、シェーブンのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

クリーン、シェーブン(1993年製作の映画)
4.0
【男の脳内にだけ雑音が迸る】
VHS時代のカルト映画『アングスト/不安』のヒットのお陰で劇場公開が期待される映画『クリーン、シェーブン』を観ました。本作はポンコツ日本映画を追い続け、毎年『皆殺し映画通信』を発行する映画評論家の柳下毅一郎が字幕監修したことでも有名な作品です。柳下毅一郎自身殺人現場マニアで、昨年名刺交換した際に、殺人現場巡りした時の写真がカッコよく印刷された代物をいただきました。そんな彼を魅了させた狂気のロードムービー『クリーン、シェーブン』に挑戦してみました。

統合失調症の人に会うと、かなりの確率で、「声が、ノイズが脳内を駆け回るんだ」といった声を聞く。本作は、なかなか想像し難いそんな統合失調症の人の心理に迫る傑作だ。明確に言葉が聞こえるか聞こえないか分からないノイズが画面を駆け巡る。男は、その不快感に耐えきれず地面に屈み込み、耳を防ぐ。彼は常に幻覚、幻聴と闘っており、突然暴力的に差し込まれる残像が観客までも不安にさせる。彼は車を運転しようとすると、ボールがフロントガラスにぶつかり、少女がふてぶてしい顔で男を見つめる。それに耐えきれず彼は彼女を殴打する。

身体の痒みは、彼の妄想を助長させ、頭を少しハサミでくり抜き、カミソリで血だらけになるまで剃っていく。終いには、爪を...いや、あまりに酷いので言葉にしないでおこう。コーヒーを3つ並べて砂糖をふんだんに突っ込む精神不安定な彼は、ミラーをテープで覆い、窓ガラスを新聞紙で隠し、道を走らせる。彼には合わなければいけない娘がいたのだ。

世界は静かなのに、暴力的な幻覚幻聴で地を這うようにして苦痛の出口を目指す男の苦悩をロードムービーという比喩に置き換えて描いた本作は動の『アングスト/不安』に対して、静のポジションを持つ。丁寧に丁寧に主人公の不安を描くことで、単なるサイコサスペンスの域を超えることに成功している。例えば、彼が人と目を合わせることに不安を感じる様子を強調するために、母親の目元から下をじっくり映すショットがある。彼がじっとしていられなくて、立ち上がると、「お座り」と立ち上がって言う。視線をズラしたいのに、ズラしてはくれないのだ。この静かなショットの連続だけでも、彼の不安が説得力持ったものとなる。

VHSカルト映画はどうしてもグロテスクな描写ばかり強調されがちだが、『アングスト/不安』同様、犯罪心理学や精神病患者の心理を深掘りし、観客に疑似体験させるメディアとして優秀と言えよう。

是非とも新文芸坐で2本立てオールナイト上映をしていただきたい。
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