菩薩

男はつらいよ 望郷篇の菩薩のレビュー・感想・評価

男はつらいよ 望郷篇(1970年製作の映画)
4.0
シリーズ5作目、マドンナ:長山藍子。

ヤクザな稼業から足を洗い、健全なカタギの世界へ、これは男はつらいよシリーズ全体に寅さんの失恋と共に常に横たわるテーマであり、そして結婚と共に最後まで叶わなかった寅さん本人と周囲の願いでもある。世話になったかつての恩人のあまりも哀れな最期に接し自らの将来を重ね、ついにそれを決意しようとも、やはり寅さんの人となりを知っている周囲はそれを許そうとはしない。しかし河一本挟んだ見知らぬ土地では難なくそれが叶いむしろ頼りにされ感謝までされる、とまぁ結局そのモチベーションが何処にあるかと言えば「べっぴん」にあるってのが寅さんらしいのだが、印象のみで人間の将来を簡単に踏みにじってしまう世知辛き世の中の仕組みは今になってもなんら変わってはいない。一般社会と己との完全なる乖離を自覚しながらなんとか自分を適応させようと奮闘する姿、それにどうしたって自分自身を重ね合わせ、夢砕かれる姿にすら自分を重ねて多少は落ち込みもするが、しかし同時に寅さんが見せるその優しさとその笑顔に救われもする。涙ながらに寅さんの将来を案じるさくら、そんな事を言ってくれるのも身内だからとまんじりともせず受け止める寅さん、寂しいくせに舎弟の将来を案じ不器用ながら突き放す寅さん、そんな寅さんの思いを汲み取り涙ながらにその場を立ち去る登、思い・思われ互いが互いを心底思いやるこの姿に、はたして涙せずにいられるだろうか。車寅次郎という人物はいつだって自分にとっては笑顔の入れ物であり泣き顔の入れ物であり、永遠の憧れである。裏の工場にいざ出向く前のあの決めポーズ、あれは絶対に真似したくなる、オーバーオール姿で決めて見せる寅さんがなんと可愛らしい事か。だがしかし…やっぱり寅さんはいつもの雪駄にジャケット、ハットに腹巻にトランクが似合うのである…。
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