まぬままおま

10ミニッツ・オールダー 人生のメビウスのまぬままおまのレビュー・感想・評価

5.0
2002年に製作されたオムニバス映画。2巻から成り、15人の監督たちは「時」に関連した10分間の短編作品をつくっている。15人の監督は巨匠ばかりだ。アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセ、ジム・ジャームッシュ、ヴィム・ヴェンダース、ジャン=リュック・ゴダールなど…名前をみるだけで、わくわくするし、そんな監督たちがひとつのオムニバス作品をつくったなんて最高です。

本作は2巻のうち『人生のメビウス』または『TRUMPET』と呼ばれる方だ。全ての作品がよかったのですが、アキ・カウリスマキが飛び抜けてよかったし、ビクトル・エリセとヴェルナー・ヘルツォークも凄かった。短編は作家性が凝縮されているからよいですね。

以下、各作品ごとにレビューする。

アキ・カウリスマキ「結婚は10分で決める」

カウリスマキのミニマムだけどウェルメイドなつくりが十全に発揮されている傑作。『過去のない男』の名コンビ、カティ・オウティネンとマルク・ベルトラが主演だからそれも嬉しい。人生の大きな決断である結婚を10分で決めるなんてそんなバカなと思いつつみていても、一向に男は女に出会えず…時間は刻々と過ぎているし、マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカの演奏を聴いている暇はない!!!けれど巧妙な視線の交わりの果てで二人は出会ってしまうんですよね。目線が合ったら一瞬で結婚は決断できてしまう。10分も必要ないんです。他にも小津を敬愛しているカウリスマキらしく赤の配色も存分にされている。もう10分短編の最高傑作です。

ビクトル・エリセ「ライフライン」

ビクトル・エリセはやっぱり凄いな…なんか言葉で語ることが失効されている。
本作は1940年の6月28日の長閑な村を描いている。エリセ曰く、「自叙伝的な作品」と語っていますが、彼が生まれたのは1940年6月30日。つまりどういうことですか(好意的)??
彼が実際に生まれた2日後にへその緒から出血して手術した出来事を語れば理解できるが、事態は逆である。ただ少年が腕に時計を書き、耳に当てると秒針が鳴るような描写があるから、フィクションの時間を創造/想像したということなのか。確かにエリセが生まれた当初戦争の足音が近づいている切迫さが十全にフィクションの時間で語られている。そしてフィクションの時間こそ映画なわけで、それならばエリセが一番純粋に「時間の芸術」としての映画を語ってみせたのかもしれない。脱帽です。

ヴェルナー・ヘルツォーク「失われた一万年」

本当にウルイウ族のドキュメンタリーなんですか…?確かにウルイウ族の人々は役者ではなさそうですが、数年後、首長・タリの兄が被る帽子には「MOVIES REAL」の文字があるし…
現実と虚構の境界は融解し、「REAL」だけが浮かび上がる。これが映画です。ウルイウ族が自明に裸体であることにも驚きです。

ジム・ジャームッシュ「女優のブレイクタイム」

ジャームッシュらしく撮影現場における女優の待ち時間をオフビート感で描いた作品。
確認にやってくるスタッフのテンポ感はおもしろいし、録音部の人がマイクの確認のためにスカートの下に手を入れたり、胸辺りを触るのは大丈夫なの?と思ってしまった。その場面を他のスタッフが目撃してしまったり、通話中の相手と一悶着あるのかと思いきや、何もなし…ちょっと拍子抜けです。
あと間接照明で均質に光を与えて、モノクロに適するルックにするのは流石だと思った。

ヴィム・ヴェンダース「トローナからの12マイル」

あんまりヴェンダースの個人史は知らないのですが、この頃のヴィム・ヴェンダースは病んでますね…しかも解決をドラッグに頼るという…
ロードムービーとSF調のサイケデリックの混交は『夢の涯てまでも』などでやっているからヴェンダースらしい作品ではありますが、心配になります。

スパイク・リー「ゴアVSブッシュ」

2000年アメリカ合衆国大統領選挙における票の数え直しを求めた「ゴアVSブッシュ」事件の関係者に証言をしてもらったドキュメンタリー。本作の公開が2002年だから民主主義社会を「普遍」とする欧米諸国ではタイムリーで大事な事件だったのだろう。けれど2024年の現在、日本に住む私がみると、前提条件が違うから説明過多な印象。カットが頻繁に切り替わることで、ドラマ性を生み出そうとしているが、「事実は映画より奇なり」とはならなかったな…

チェン・カイコー「夢幻百花」

ある男が仕事をしている引っ越し業者に突然、引っ越しを依頼する。しかし依頼先の住所に行ってみるとそこは更地だった。短編としてとても面白い設定だし、男はそこに家があって、家具があると本気で言っているからヤバい奴だ。だが業者はお金のために家具を運搬するのを「演技」でやるが、不思議なことにだんだん家や家具がみえてくるんですね…
まさにフィクションが現実を超える魔法。素晴らしいです。

以上、レビューしてきた。やはり各監督が映画の「時」とは何かを考え、全く別の仕方で表現していることがよく分かる。多分あと100回ぐらいみると思う。それぐらい素晴らしい作品たちでみれてよかったです。