垂直落下式サミング

ヒルズ・ハブ・アイズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ヒルズ・ハブ・アイズ(2006年製作の映画)
5.0
「アトミックベイビー」という言葉がある。
第二次世界大戦終結後、徴用されていた兵士たちが祖国に帰還したことで世界中でベビーブームがおこった。
二発の原子爆弾を日本国土に投下し、その圧倒的な力で太平洋戦争に勝利したアメリカは、自国の未来や希望の象徴という意味を込めて、戦後ベビーブーム期に生まれた子供のことをアトミックベイビー(原水爆の子ら)と呼んだのである。
敗戦国に暮らす我々の感覚からするととんでもない呼び方だが、当時、原子力は人類の叡知の結晶であり、人々の生活に平和と繁栄もたらすパワーとピースの象徴だった。皆がそう信じて疑わなかった時代が、アメリカ最後の黄金期だ。
だが本作は、その繁栄の影には犠牲となり切り捨てられたものたちの怨念があるはずだろうと、フランス人であるアレクサンドル・アジャならではの外部からの客観的・批評的な視点でもって、非常に露悪的に「アトミックベイビー」なるものをネガティブな角度からとらえており、アメリカ製作の映画ながら「核」というものに真摯に向き合っている。
よく利用している某大手レンタルショップでは、内容があまりにも残酷なため一斉にレンタル中止になったらしい。だが、むしろ描写の過激さよりも、冒頭に流れる核実験の模様や、奇形児たちの写真や映像のザッピングは兎も角、放射能汚染された地に暮らす食人一家に襲われるという、核実験と被爆に強い関連を持つ本筋のストーリーそれ事態が問題となってしまったように思う。
「核」は、こと日本においては非常にセンシティブな話題なわけで、被爆しミュータント化したとはいえ、彼等がどうしてモンスターのように描かれ、人間狩りを楽しみ女性を強姦する獣のような食人一家にならなければいけないのかと、我々にとって拭いがたい負の記憶をお前さんがたは映画のネタにするのかと、そういうところを問われてしまったのだろう。
この内容ならそういう反応があっても仕方ないとは思うが、リメイクが本家を越えたスラッシャーホラーの傑作だと思うし、創作としての倫理は踏み外していない作品だと、私は本作を推していきたい。
「ずっと見ているぞ」という逃れ難いラストシーンをみれば、本作がハリウッド的なお気楽さで「核」を扱った作品でないことはわかっていただけると思う。