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ヘンリー・フールのくりふのレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
3.5
【メフィスト寅さんと、メリケンとらやの明暗】

JAIHOにて。未見との記憶だったが、見たらば覚えている…が、見た時・場所の記憶がない。懐かしのシネヴィヴァン六本木閉館上映だったらしいが、行った記憶も、その後ビデオで見た記憶もない…と、奇妙に刻まれた一品となりました。

でも、改めて見ると、やっぱり微妙に膝カックンで、いいんですねえ…。

スパイスは料理の味わいを強めるため加えるが、はじめにスパイスを舐め、その後に料理を味わうような進み方。スパイスがハッタリのように効き、なんか誤魔化される感覚がある。

自称作家で、延々と自伝を綴る流れ者ヘンリーが、母・姉と暮らす清掃業者サイモンの家、その空いた地下室に住みつく。彼はサイモンのある才能を見抜き、育てようとするが…。

ハンパに大きい話へ膨らませた影響か、逆に凡庸なドラマっぽく薄まる弱みがある。137分が長い…。この監督の良さは、小さな話で要所を膨らませる所では?と改めて思う。

が、引っ張るのは人物で、相変わらずそこはオモロイ。ヘンリーは欲望全開の寅さんだ。人たらしだが胡散臭い。で、彼に巻き込まれる“とらや”の面々が、人生の明暗を分けてゆく。

寅さんとの違いは、カギが性欲なコト。…あんま変わらんか?(笑) サイモンの家は、彼以外は女だから、タダじゃ済まない。しかしサイモンという草食系人物も実は、カギが性欲だったコトがわかってきて…これが意外な展開をみせてゆく。

セックスと嘘とインターネット。

ヘンリーの胡散臭さから始まって、メディアの胡散臭さを呼び寄せる構図も面白いが、どんなに抉りあった仲でも最後は、やっぱり互いの心を思いやれ!と言い直しており、性的だが実は、静的な感動作。体温は低いが、心に染みる。

モラル的にはかなり毒入りなんだけど、この監督作だとなーんか、許せてしまうのだ。

ヘンリー役トーマス・ジェイ・ライアンも、サイモン役ジェームズ・アーバニアクも、ほんとナチュラルに嵌ってます。何処かに居そう、こんなヤツ。姉ちゃん役のパーカー・ポージーは、地味ながらアイドル風華やかさを放ち、ステキです。ちょいエロやし。

しかし監督夫人の二階堂美穂サンは、ただただ寡黙でナゾ。ナニ人の想定なのだろう?

<2022.12.17記>
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