菩薩

ヘンリー・フールの菩薩のレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
4.3
SEX気狂いの姉、鬱病の母、そんな二人を養う為に、ごみ収集の仕事に精を出すサイモン。周囲からは虐げられ、ヤンキーからは目をつけられ、笑顔も無く酷くつまらなそうな毎日を過ごす彼だったが、謎の男「ヘンリー・フール」との出会い、そして彼が渡した一本の鉛筆、一冊のノート、そこに綴られる無数の詩が、彼の人生、そして周囲の人間の人生すら一変させていく。

この世は天国か地獄か、それすらも人によって違うのだから、芸術に「傑作」も「駄作」も無い、あるのはただ「好き」か「嫌い」かだけであり、そんな単純な意見ですら時と場合によっては変わっていく。これは映画のみならず、芸術全般を愛する者、それに勤しむ者全員につきまとうテーマでは無いか。才能や作品の評価は本人では無く他人が、そして時代が決める。それを求めているかいないか、ただそんな事で。例えばこの様に、日がな己の退屈な日々を埋めるかのように書き散らす駄文でさえ、有難い事に時にそれを褒めてくれる人がいる、勿論つまらんと思っている方もいるだろうし、(すんません…本当にすんません…)芸術だなどとはこれっぽっちも思っていないが。他人の評価に惑わされるな、賞の権威に騙されるな、そして己の才能を疑うな、君は生まれて来た、そして生きている、ただそれだけで「生きる才能」を持っているに値する、後は運があるか無いか、ただそれだけだ。多くの死後評価されるに至った芸術家に足りなかったのは、ただ人目に触れ、他人の心に火をつける「運」が足りなかったと言うだけだ、そんなハートリーの自己弁護とも取れる作品であり、劇中に散見される嘔吐や下痢便、汚らしく切迫詰まった性描写に、ハートリー本人の吐き出された内面を垣間見る。勿論それをただ汚らしいと唾棄する人もいるだろう、それは正しい反応だと思う。ただ俺はそんな描写を爆笑をもって迎えてしまうし、この作品にはただ「大好き」だと、素直な感想送りたいと思う。芸術家に資格はいらない、ただ己がそう思い、そうあり続ければ良いだけだ。そして芸術は、矛盾だらけの地獄の様な世の中を生き抜く為に、必要不可欠なものであると思う、生きる事それ自体が、芸術である様に。
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