高峰秀子の溢れるばかりの芸域を存分に堪能できる映画だった。
無数の表情、動き、そしてスクリーン映えするあの声。どん底の気持ちで沈み込むシーンから突然狂ったように歌いまくる高峰さんを浴びただけでも映画館に足を運んだ甲斐があった。
この映画における高峰さんの圧倒的な庶民感と司葉子の美し過ぎるブルジョワ感との対比を際立たせていた。
回想シーンも未だかつて見たことがないガラスの向こう側の光景のようで不思議な効果を醸し出していた。
そして幾度か現れる高峰さんの殺人妄想シミュレーション。謎の色仕掛けバージョンに笑ってしまった。
ラスト、心壊れて緑のおばさんに徹する高峰さんが切ない。
結局いちばんまともだったのが黒沢年雄演じる半端ヤクザの弟ただひとりだった。