ぬーこ

日本暗殺秘録のぬーこのレビュー・感想・評価

日本暗殺秘録(1969年製作の映画)
3.6
監督 中島貞夫
脚本 笠原和夫、中島貞夫

現代、暗殺を超える思想はあるか?
最後に問いかけるようなテロップ

2時間20分のうち、多くの時間が割かれるのは血盟団事件で井上準之助の暗殺犯・小沼正(千葉真一)の半生。茨城の田舎で正直に生きて無職になった父、高利貸しに倒産に追い込まれたカステラ屋の一家、不治の病を負った地元の恋人、全てに絶望し、海に身体を投げ打つも死ねず、小沼は気がつくとお題目を唱えていた。
師・井上日召は弟子の海軍士官・藤井(田宮二郎)の説得により、ついに現状打破、革命の嚆矢となることを決意する。

その小沼の事件の前に時代別に桜田門外ノ変、紀尾井坂の変、大隈重信遭難、安田善次郎暗殺、ギロチン社事件と先の暗殺事件とその犯人の顛末が描かれる。暗殺犯の末路を相討ち、自死、刑死と様々に示すことで、小沼の最期を暗示するかのようだった。(ただし史実では小沼は無期懲役、その後恩赦で戦後も生きながらえている)

最後に2・26事件が30〜40分程見せるのは何故か。血盟団事件を契機に同じ現状打破、国家改造思想を持った事件が出てきたことを描きたかったのか。はたまた高倉健さん鶴田浩二さんとか大物をキャスティングできたからか。小沼の話で終わりにしてもよかったけど226事件は白黒映像でこれはこれで見応えがあった。

話を戻すが小沼。時代は不況の只中で失業者が街に溢れ、庶民はエログロナンセンスに明け暮れ、政財界や軍幹部は腐敗して己の私服を肥やすことばかりしている。どこか現代と似たような状況下。しかし今と違って若者はこの国を何とかしたいという憤怒近い情熱で暗殺を決行していくのである。ギロチン社事件の古田大次郎が言っていたテロリズムは民衆に残された抵抗?だよと話していたのが印象に残る。

暗殺は暴力に訴えることでもあるので、現在の感覚では絶対悪である。また、暗殺犯は殺されるか長い刑期を受ける為、個人の命を重視する時代においては動機付けが厳しいのかなあ。思想に殉教するよりも安穏と平和と諦念に行き着くのだろうか。
また江戸時代から続いてきた日本人特有の死の捉え方。文字通り、生命を懸けてひとつの主張をする、その事が美徳であるという赤穂浪士的精神が戦前まで続いてきたんだなあと。

井上日召との師弟関係も良かった。師は逃げれるなら逃げろよと銃を渡すが、銃の扱いが下手だった為、確実に一人一殺を果たす為に至近距離で銃を放ち、逮捕される。 

それにしても小沼がカステラ屋で出会うたかちゃん、地元で持病を患っていた農家の子、2人ともとても美しく見えた。主人公が絶対に幸せになれない、手に入らない女性だからこそ美しく見えたのか。

昭和恐慌時代の庶民の生活を見たのも初めてかもなあ。役人ひどい奴らだわ

千葉真一がだんだん劇団ひとりに見えてしまった笑
 
○シーン
226事件の首謀者らが処刑されるシーン、天皇陛下万歳に交じって、こんな国だめだ〜とか軍幹部批判の声をあげる

安田善次郎暗殺をの時の菅原文太の凄み

2021.140
ぬーこ

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