708

廃市の708のネタバレレビュー・内容・結末

廃市(1984年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「転校生」「時をかける少女」と、大林宣彦監督は尾道を舞台にした作品を撮ったところで、柳川を舞台にしたこんな作品を撮っていたんですね。知らなかったです。

新人の山下規介が初々しい。彼の棒読み演技も「時をかける少女」での原田知世と同じ方式で、周りを凄いキャストで固めてサポートして成立させている感じ。「転校生」とはまったく違い、高めの声で美少女なお嬢さんっぽい振る舞いの小林聡美は、コミカルさが一切ない彼女には珍しい役どころ。「転校生」での相手役だった尾美としのりも出ています。

日本のベニスと言われる柳川での姉妹と姉の旦那の三角関係。控え目で翳りある姉・郁代(根岸季衣)と快活な妹・安子(小林聡美)は離れて暮らす微妙な関係。その原因は安子に好意を寄せる郁代の旦那・直之(峰岸徹)。夏休みに卒論を仕上げに来ている大学生の江口(山下規介​​)はそんな状況を目の当たりにしているのですが、江口はいろいろ知りたがり、周りも江口にいろいろ喋り、いつしか江口は複雑な状況の渦中に。

直之にしろ下宿人の三郎(尾美としのり)にしろ、みんな安子に思いを寄せながらも黙ったまま。それはまるで、廃れて寂れた町の閉塞感によって、気持ちを押し殺しているかのようにも見えます。

でも、そんな町に滞在していた江口も、いつしか安子への気持ちを押し殺していたことに、町を去る列車が走り出したときに気づくというオチ。滞在中に止まっていた江口の懐中時計が、いきなり動き出す演出は、まるで廃れた町では時間が止まったままのように思えました。

ずっと無言だった三郎が、走る列車の江口ひそのことを投げかけるシーンはとてもエモーショナルで映画らしかったです。
708

708