よーだ育休中

時をかける少女のよーだ育休中のレビュー・感想・評価

時をかける少女(2006年製作の映画)
4.0
平凡な高校二年生、紺野真琴は、日直の仕事で理科準備室を訪れた際、突然現れた人影に驚き転倒してしまう。帰り道、商店街の坂道を自転車で下っていると、坂の下の踏切が鳴り遮断機が降りる。真琴の乗っている自転車はブレーキが故障しており、そのまま電車の接近する踏切に突っ込んでしまった。


◆原作超えのスピンオフ(私見×先入観)

筒井康隆氏の著書である同名小説を映像化した作品…ではなく、多くのメディアで展開されてきた同作をベースにした派生作品の一つ。原作小説の主人公である少女の姪が今作における主人公であり、叔母と同じ様にひょんなことから手に入れたタイムリープ能力と思春期の淡い恋愛模様が描かれている。なお、お恥ずかしながら原作小説は未読で、原作小説の映像化作品も未視聴。【時をかける少女】といえば今作しか知りません。

今作は、スタジオ地図の設立者であり、日本を代表するアニメーション監督である細田守監督が、東映アニメーションを退職し、フリーへと転向してから手がけた長編アニメーション作品の第一作目とのこと。(先日のデジモンを観て、細田監督が東映アニメーション出身だと初めて知りました。)モブキャラや表情の作り込み、キャラクターの動きに粗さを感じるカットが多少なりともありますが、どこかノスタルジーを感じさせる作風と、ほっこりほろりとするエピソード。そしてなんといっても《空》の表現の美しさと多彩さに同監督らしさを感じるところです。

原作を何も知らないくせにこんな事を言ってしまうのは少しばかり気が引けますが、(世代的には今作がストライクな事もありますが)今作は原作を超えたスピンオフ作品だと思っています。そのくらいストーリーもキャラクターもクオリティが高かった。


◆ ミクロからマクロへの視点の転換

タイムリープ能力を手に入れた真琴は、平凡で心の優しい女子高生。《不可逆な時間》を跳び越えて、踏切での事故死を回避した彼女は、自らに与えられた能力を《日常の細やかなズル》のために使います。カラオケを何度も延長させたり、小テストで良い点を取り直したり、調理実習での失態を回避したり。男友達の千昭から告白された時に、逃げる手段として使ったり。

日常生活でのちよっとした失敗も、時間を跳ぶ事ができれば、好きな様にやり直せる。そんな小狡い使い方をしていた真琴でしたが、バタフライ・エフェクトの様に《ちょっとしたやり直し》がきっかけで友人が怪我をしてしまったり、恋が成就しなかったり、命を落とすことにさえ繋がってしまうという未来の可能性が現れました。選択肢ひとつで未来が変わることを通じて、作品内で発生するイベントのスケールが大きくなっていきます。

そして極め付けは、気のおける友人であり、気になる異性でもあった千昭の正体が開示される瞬間。

『俺、未来から来たって言ったら、笑う?』

タイムリープを扱う作品である時点でSF要素が含まれていましたが、主要キャラクターの一人が未来人であり、一連の騒動の発端であったこと。彼がやってきた未来が退廃的なものであったことを通じて、青春の日々を描いていた作品のスケールまで大きくなり、ミクロからマクロへと視点がスライドします。

『真琴は千昭くんとも功介くんとも付き合わないで、将来全然違う人と付き合って結婚すると思っていたー』

恋愛観や人生観もスケールアップ。学校がコミュニティの全てであった学生時代。でも本当は、そんことは無くて。《これから貴女たちが飛び出して行く世界は広いんだ》というメッセージが、原作のヒロインから今作のヒロインへと送られている様でした。


◆ Time waits for no one.

瑞々しい青春の日々。
今がずっと続けばいい。

大人になるためのモラトリアム期。
進路のこと、気になるあの人のこと。
漠然とした将来への不安。
ー今が、ずっと続けばいい。

タイムリープを題材にした作品であり、今作では《都合の悪いこと》や《楽しいこと》を時間を跳躍することで何度でもやり直すことが出来ました。でも本当は、時間は誰に対しても平等に流れていき、過去に遡ることは出来ません。楽しい時間は、永遠には続かないし、不安で先延ばしにしたい将来も、いつかはやってくる。そんな至極当然の事を教えてくれる作品でした。そして、今作のヒロインは、同年代の少年少女と同じ様に普遍的な悩みと向き合います。それは自分の気持ちと、相手の気持ち。

怒涛のラストを彩る奥華子さんの楽曲が胸に沁みます。千昭と真琴の回想シーンで流れる【変わらないもの】そして、エンディングテーマである【ガーネット】。彼女の透き通った歌声と繊細な歌詞に思わずグッときてしまう。昨日を振り向かず、明日を怖がらず、希望を持って一歩を踏み出そう。爽やかな青春の一ページ。



ー真琴!前見て走れ!


ー未来で待ってる。




ーうん、すぐ行く。走って行く。


*雑記*
みるきぃさんと初の同時鑑賞をさせていただきました!これは新年早々縁起が良い!みるきぃさん、ありがとうございました!
どんなアーティスティックなレビューになっているのか、めちゃくちゃ楽しみにしてますワク(灬ºωº灬)テカ