戦後のイタリア、身寄りのない年金生活者ウンベルト・Ⅾ。戦後経済は貨幣価値も安定せず、年金は家賃へと消えていき食べるものにも窮している。年金引き上げのデモには参加するが、公的機関で長年働いた自負もあり、その気位の高さから生活(住まい)が変えられない。ついには家賃が払えずアパートメントを追い出され、思い余ったウンベルトは犬を連れて電車に乗る。
戦争がこの老人を追い詰めたとは言え、同じような境遇の年寄りたちでも、借金もなく、仕事しながら生活をしている者もいる。物乞いをしてでも食いつなごうとするものもいる。保護施設を頼る方法もある。が、ウンベルトはプライド故にそれができない。知人に物を売りつけようとしたり、横柄なところもあり、この老人にあまり感情移入はできないため、丁寧につくられたモノトーンの映像にどこか距離をおいて彼(社会)を眺める印象だ。
彼のアパートメントに蟻が侵入し追い払うシーンがある。冒頭でデモ行進に参加していたウンベルトたち老人が追い払われるのと同じ理屈だ。寄生しようとする者に与えるものなどない世の中なのだ。そして変われない者にも。
ただ、飼い犬のフライクだけが彼の心のよりどころ。フライクは彼を疑うことなくついていく。ただ愛してくれる者に忠実だ。けれどその信頼が脅かされた時フライクまでもがウンベルトを見放す。彼がフライクを追いかけ信頼を取り戻した時、彼はまた生きることに前を向く。どんな時にも生きていくために愛は必要なのだ。
並木道を行くウンベルトとフライクの姿は、明るい光と子供たちの声に満ちていた。
ウンベルト役の男性は俳優ではなく言語学者。
妙にリアリティーがあった。
犬のフライクの存在がこの作品を名作たらしめている。