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インテルビスタの一人旅のレビュー・感想・評価

インテルビスタ(1987年製作の映画)
5.0
フェデリコ・フェリーニ監督作。

イタリアのチネチッタを主な舞台にして、映画監督フェリーニの映画への想いを綴ったドラマ。

巨匠:フェデリコ・フェリーニがイタリアの誇る映画撮影所「チネチッタ」の創立50周年を記念して作り上げた、映画への飽くなき愛情と郷愁の心に満ち溢れた傑作で、フェリーニの映画製作を昔から支えてきたチネチッタそのものを一つの大きなセットとして用いています。

カフカの「アメリカ」の映画化に取り組む監督フェリーニを日本の取材クルーがインタビュー(伊語で“インテルビスタ”)するというお話ですが、物語は多重構成になっています。撮影に励む現在のフェリーニ監督の動向を映し出していきながら、フェリーニ役の若手俳優を主人公としたフェリーニ自身の回想劇も描かれていきます。現実と虚構が交互に映し出されるというより、むしろ現実と虚構が混然一体となった物語構成はまさにフェリーニの名人芸であります。フェリーニ役の俳優が電車に乗っていたらいつの間にか年月を遡ってしまい、フェリーニ自身の青春時代の物語にシームレスに移行していく。さらには、物語の流れとは無関係にインディアンの一群が撮影隊を襲う唐突な展開まで…。まさに映画の魔法と呼べるこれらの素晴らしいショットを目の当たりにして、観客はフェリーニの衰え知らずな映画的センスを改めて実感することになります。

そして、フェリーニの代表作の一つ『甘い生活』で競演したマルチェロ・マストロヤンニとアニタ・エクバーグが27年の時を経て再び邂逅するシーンの郷愁的な美しさ。マストロヤンニが杖で茶目っ気たっぷりに魔法をかけると、トレヴィの泉でマストロヤンニとエクバーグが戯れる『甘い生活』の名場面が鮮やかに甦ります。加えて、フェリーニの作品達に欠かせない存在であった名作曲家:ニーノ・ロータの名曲までもが次々と流れ始め、まるで“フェリーニの映画史そのもの”の映像化であるかのような集大成的名編になっています。

『道』『甘い生活』『8 1/2』『サテリコン』『アマルコルド』『カサノバ』…と数多くの名作を生み出してきた撮影所「チネチッタ」への感謝と想い出、そして、何にも束縛されない自由な発想と想像に基づく偉大な作り物―「映画」に対するフェリーニの過去から現在に途切れなく続く親しみと愛情の念を目一杯に詰め込んだ、大好きなもので溢れ返ったおもちゃ箱のような逸品。必見のフェリーニ映画であります。
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