あなぐらむ

斬り込みのあなぐらむのレビュー・感想・評価

斬り込み(1970年製作の映画)
3.7
また、ラピュタ阿佐ヶ谷でかかると聞いて。

デビュー作には監督の全てがあるというが、本作も以降の澤田作品のテイストが横溢している。うだつの上がらないチンピラ達の怒り、もがきとその果てを、アクションというよりも泥臭いバイオレンスが彩る。

助監督の藏原惟二と書いたシノプシスに、主演の渡哲也が一週間しか使えない、という条件が入り、急きょ永原秀一が手を入れたそホンだが、基本澤田監督の持つ現状への閉塞感が直接的に出ている。
舞台が川崎の港湾地区なのも良い。まだ東映が任侠から抜けきらないうちに、日活はピラニア軍団を先取りしていたのだ。

上記の条件があって実質的な主役は中間管理職やくざの郷えい治が背負い、跳ね返りの藤竜也や沖雅也と組長の間で苦しむ様を熱演。この頃の彼の代表作と言ってもよいのではないか。岡崎二朗の純情が日活らしい。
刺客にウエイトの乗った東映組の曽根晴美、新興のインテリヤクザの青木義朗が作品に重みを与えている。
1970年という事で後のロマンポルノ男優陣の顔が多く見られるのも楽しい所。長弘、五条博に高橋明、庄司三郎と榎木兵衛。ノンクレだが隅田和世が
いたような。

デビュー戦でしっかり決めてみせた長谷部安春に比べると、まだまだぎこちない演出は澤田幸弘らしいという気も。高村倉太郎の撮影にだいぶ助けられている。最後の空撮は素晴らしい。
渡哲也のヒーロー像は同じ日活の『無頼』人斬り五郎シリーズの亜種でしかないが、圧倒的な存在感でチンピラどもの中で屹立してみせるのは流石。

事前に少し澤田監督のインタビューを読んだのだが、本作には戦中・戦後派である澤田監督の思想を色濃く映している。「どこにも行けない俺たち」が余所から来た大きな「連合」に占領され、心情的な柱(御隠居)殺しをやらされ、その「親(父性)」にも裏切られていく。
澤田監督は思想的な変節、筋を通さないものに怒る。横暴な権力に怒る。だから作品が熱を帯びるのだ。