このレビューはネタバレを含みます
役者がセリフ棒読みなところも、そもそもセリフがなかなかチープなところも、話の展開にちょこちょこ無理があることも、ぜーんぶ心の底からどうでもいい。
もしかしたら劇伴が久石譲なこともあんまり関係ないかもしれない(サントラ死ぬほど好きだけどね)。
わたしはこの映画を愛している。この世でいちばん美しい映画だと信じている。美しくないところなどひとつもない。
死んだらディスクを棺桶に入れてから燃やして欲しい。
主人公とその妻は、映画の終わりに死ぬ。夫妻は、自分たちが死ぬことを、きっと物語が始まる前から分かっている。
見る方にも、すぐに伝わる。これは死に向かっていく物語だということ。たとえあらすじを一切知らなくても、確実にわかる。
静謐で濃厚な死の香り。咲き乱れる花々のようなその香り。その中でこの映画は始まり、動き、終わっていく。
隙あらば出てくるコントチックな演出が良いスパイスになっていて、だからこそ、終わりの美しさが悲しくてやりきれない。
おなじ時間の流れの中で、死んでいく西夫婦。生きていく堀部。
双方の対比が美しい。
「ソナチネ」の主題が「死そのもの」であったならば、本作の主題は「生と死」であると思う。
ある意味「ソナチネ」のアンサー的な作品なのかもしれない。
監督の演出力、映像構成力は異才というほかない。
とくに、西夫婦の愛の描き方ときたら!あのケーキとパズルとタバコのシーン。あのシーンが正直一番好きだ。
見るたびにうっとりして、温かい気持ちになって、そして悲しくなる。やっぱり悲しい。終わりがわかっているから、ものすごく悲しい。
この話に出てくる人は、みんな優しくて、ユーモアに溢れている。
私はそれがとても嬉しくて、だからこそ物語の終わりに何度も思いを馳せて、何度でもやりきれない気持ちになる。
この映画における「自決」という言葉の意味を噛み締める。
自殺じゃなくて、自決。
いつ死ぬか、どこでどうやって死ぬか、自分ですべて決められること。
それはすごく恵まれていて、幸せなことかもしれない。
そしてなんにせよ、命に終わりがあるということは、きっととても優しいことだ。
この映画を見るにつけ、そのことを強く思う。
全然レビューじゃねえじゃん。ただの好きな映画語りになってしまった。
愛している。この映画を、死ぬまで。